他の男の影

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「婚礼衣装を作るのを頼んであったんだ」 「そうだったのですね」  ここのところ慌ただしかったから、祝言のことをすっかり忘れてしまっていた。 こういうことが話題に出れば秋都様との婚姻が迫っていると感じてなんだかそわそわする。  とは言え、損得勘定の結婚ですけれど。はは。  私は自虐的にならなければ塞ぎ込んでしまうような気がした。 「ということは日取りが決まったのですか?」 「ああ。来月の甲子の吉日に祝言を挙げよう」 「……はい」  私はどういう顔をしたら良いのか分からなくてとりあえず大きく頷いた。 いけない、損得勘定の結婚なのにやはり浮かれてしまいそうだ。 損得勘定の結婚なのに。  そっと隣を見上げれば、秋都様は提灯の灯りに照らされて歩く人々を眺めていた。 「明後日、鬼門の結界を結び直すそうだ。その頃には都の情勢も落ち着いているだろう」 「そう……なのですね」  ついに鬼門が……。 私は安堵なのか心配なのか分からないため息をついた。  前回、結界を結び直す祭事が行われたのはお父様が生きていた頃だった。 あの時は私も準備に奔走していたけれど今回はまるで様子が分からない。 そのことが、少し寂しいような気もした。 「では、今頃干支の方々は忙しいでしょうね……」 「ああ。何度か輿を担いだ行列がやってくるのを見かけたぞ」 「そうでしたか。それは賑やかだったでしょうね」  叔父様は秋都様に一体いくら請求したのだろう。 秋都様は私に何も言わないけれどきっと莫大な準備金を求めたに違いない。  話も途切れ、私たちはしばらく街の喧騒に耳を傾けながら歩いた。 いつもは秋都様の方から色々と話しかけてくれるものの、今日はぼーっと何かを考え込んでいるらしく静かだ。  そしてもう少しで屋敷に着くという時、秋都様は突然道の端にしゃがみ込んだ。 「あーー〜〜っ」  と、頭をくしゃくしゃさせながら。
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