本音と本音

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本音と本音

 そして秋都様が目覚めたのは、次の日の孔雀さんが婚礼衣装を持って屋敷に来た頃だ。 孔雀さんはこれでもかというくらい品物を持ってきて、広い部屋の中でそれをひとつひとつ広げていった。  紅色、桃色、空色、鶸色などなどの反物や、花車、束ね熨斗、松竹梅の豪華な図案。 他にも髪飾りに使うべっこうや珊瑚などの宝石も沢山ある。 白無垢用の反物でさえ何十種類とあって、全て見るのに一刻ほどもかかってしまった。 「好きなものはあったか?」  と、最後に秋都様は私に尋ねる。 たくさん寝た秋都様はもう普段の様子に戻っていたのだった。 「えっと。そうですね……」  正直、今私は反物よりもそこに書かれている値札のことで頭がいっぱいになっている。 桁が見たこともないような長さだ。 質感や色などを見れば納得できるのだけれど、これは本当に着る物の値段なのだろうか。 「どうした?」  私が何かを思っているのを察したのか、秋都様はじっと私を見た。 その視線からは逃れられそうにない。 「あ、あの……どれもとても素敵だと思うのですが、贅沢すぎて気が引けてしまいます。もっと質素なものはないでしょうか?」 「アラァなんて倹約家なのかしら!? 私だったらこの家に嫁げばどれだけ豪華なものを仕立ててやろうかと考えるわよ」  オホホホホと孔雀さんが笑う横で秋都様は考えていた。 しばらくして、難しい顔をしながら首を傾げる。 「それがすずの望みならそうするが……本当にいいのか? 一生に一度のことだぞ。理想とか、ないのか?」  一生に一度。 その言葉は私の胸をドキリとさせた。  いや、浮かれてはいけません。 これは損得勘定の結婚なのですから。  私は昨日言われたことをまだ引きずっていた。 「理想、ですか……」  頭の中を探ってみる。 すると、一つだけある事が思い浮かんだ。
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