本音と本音

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「あ、あのっ! 私、お花は桔梗でなくても良いんです!」 「なんでだ? 憧れてたんだろう?」 「そうですが時期外れのお花は高いので他の種類でも十分でして」 「なんだ、それなら全く問題ない」  秋都様は満面の笑みで判を押してしまった。  そ、そんな……。 「ではでは私は早速準備をしますので今日のところはこれで。すず様、お着物はまた今度見繕いましょうね〜」  と、孔雀さんは上機嫌でお付きの者達と荷物をまとめて去って行った。 孔雀さん達がいなくなった後はとても静かだ。 私は責任の重さに頭がくらくらしてきて、畳の網目を眺めることしかできなかった。 「夢が叶えられそうで良かったな、すず」  秋都様がにこにこしながら振り返る。 それと同時に、私は顔を見られないように体ごと後ろを向いた。 秋都様は私のためを思ってしてくれたのに、今は笑顔で感謝を述べられる気がしない。 「おい、どうした?」 「い、いえ。なんでもありません」 「嘘つけ」  秋都様は絶妙に避ける私の頬を掴んで上を向かせた。 だいぶ強引だ。 案の定、暗い顔の私を見て秋都様はぎょっとした。 「具合でも悪いのか?」 「ち……ちがいます」 「ならどうした」  部屋は静まり返る。 私が正直に話すまで秋都様は解放してくれない気がした。 「両親と同じ風にできるのは嬉しいですが、金額が高すぎます……」 「高い? あんなの端金だ」  は、端金!?  私は秋都様と金銭感覚がまるで違うことを思い知らされた。 「なんだ、まだ文句がありそうだな?」 「も、文句といいますか……。住んでいる世界が違うのだと思いまして」 「そもそも、いくら経営状況が悪かったとしてもすずは貴族の娘だろう? なぜ自分に金をかけることを躊躇する?」 「わ、私は市民から得た献金を好きに使いたいなどと思ったことはありません!!」  ……あ。  思わず強い口調で言ってしまった。 どうしたら良いのか分からなくなった私は、情けなくもその場から逃げようと走り出す。 「待て」 「きゃっ」  けれど、それより早く秋都様が私の腕を捕まえた。 秋都様は頭をぐしゃぐしゃとさせていて、もどかしそうな顔で私を見る。
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