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猫の好敵手
次の日、私は秋都様との約束通り都へ訪れていた。
祭事へ出かけるならと絹江さんは張り切って私に綺麗な着物を着せてくれて、今日は絞りの小振袖を着ていつもの何倍も華やかな格好をしている。
汚してしまわないかとひやひやもするが、今はそれを気にするよりもっと重大な任務があるのだ。
正午まではあと一刻。
私は鬼門から一番近い河原へと急いでいた。
きっとそこには彼がいるはずだ。
「あれ、すず?」
中心部から離れ人もまばらになった通りを歩いている時、急に名前を呼ばれて私は振り返った。
そこには思わずため息をつくほど美しい聖獣の青年が立っている。
青年は栗皮色の髪を片方耳にかけていて、少し垂れた目元は優しく、口元のほくろも相まってどこか中性的な雰囲気だ。
しかし、それに似合わずなぜか頭にひょっとこの面をつけている。
「伊織様!?」
私はひょっとこの面は気にしないことにして青年の元へ駆け寄った。
伊織様は馬族を束ねる芦馬家の当主だ。
まだ時間があるとは言っても祭事を行う当主がまさかこんな所にいるとは思わなかった。
「あら、誰かと思ったらすずだったのね」
「え!? 本当だ!?」
その横には、梓ちゃんと圭吾様もいる。
「あ……皆様おそろいで……?」
「せっかく都に来るなら遊びたいし、今回の祭事は風雅に任せちゃった〜」
と、伊織様は驚いている私ににこっと綺麗な笑顔で笑った。
なんでも許してしまいそうになるまさに蠱惑的な美貌だ。
伊織様はその外見から干支の中でも特に神格化されており、女性人気が高いお方なのだ。
実際は、この発言から感じられるようにかなり悠々自適な性格だけれど。
ちなみに風雅とは伊織様の弟君のことだ。
大方一緒にいる梓ちゃんと圭吾様には都の案内を頼んだのだろう。
薬草が採れる山を持つ馬族と医学に精通している鼠族は関わりが深い。
私も昔はよくお父様に連れられて薬草をもらいに馬の山に訪れていたので、伊織様とは幼馴染のようなものだ。
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