猫の好敵手

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「ていうかすず、その着物……どうしたんだ? に、似合ってなくもないけど!」  圭吾様は伊織様より前に出てきて突然切り出した。  ダメ出し……されているのでしょうか?  良く分からないし何故か目が合わない。 梓ちゃんも細部を確認するように私のことを上から下まで見つめていた。 「本当、見違えたわ。どういうことなの?」 「あ、これは……猫塚家の方がお出かけをするならと着せてくださいまして」 「へぇ〜そうなんだ? それってもしかして、大事にされてるってこと?」 「はい。みなさんとても良くしてくださっています」 「へー、ふーん?」  梓ちゃんは含みのある顔で何度も小さく頷いた。 「それですず、急いでたっぽいけど用事でもあったのか? 引き止めたのは俺だけど」  私は伊織様に尋ねられてハッとする。 「そうでしたっ! お二人とも申し訳ありません、伊織様をお借りします」 「え? 俺?」 「はい、少しこちらへ」  私は体格の良い伊織様の背を押して人気のない所へ行った。 てっきり祭事の前なので身を清めているかと思って川へ向かっていたのだけれど、行き違いにならなくて良かった。  伊織様は神妙な面持ちで向かい合う私をきょとんとして見つめている。 私は、緊張しながらぎゅっと拳を作った。 「えっと……、単刀直入にお伺いします。午の山に自生している薬草の株分けをしてくださいませんか?」 「株分け? なんで急に?」 「実は都のそばに薬草園を作りたいと考えているんです」  昨日、ずっと考えていた。 秋都様の元へ来た私にできることは何だろうと。 鼠族の妻として隣に立つだけではなく、本当の意味で役に立ちたい。 ならば、自分の手で分け隔てなく誰もが薬を得られる環境を作ろうと思ったのだ。 秋都様もきっとそれには喜んでくれるはず。  私が伊織様に事情を説明すると、伊織様はしばらく真顔で私を見ていた。 まるで私の意思を測るように。  や、やはりダメなのでしょうか? 伊織様はいつもへらへらとしているけれど、根は思いやりがあって聡い方だから賛成してくれると思ったのですが……。 「……すず」  ようやく伊織様が口を開く。 けれど次に言われたことは予想外の言葉だった。
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