手を伸ばせば届く距離

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「すず、遅い!! この俺を待たせやがって。今日は梓も来てるんだぞ」  と、大きな声で言ったこの青年は叔父様の愛息子である圭吾様だ。 そして梓とは圭吾様の婚約者のことで、私と圭吾様から見たはとこの関係にあたる。  それもあってか普段よりかしこまった紺色の羽織袴を着ている圭吾様は、私のことを眺めると目を細めてフッと笑みをこぼした。 「よく聞け? 俺が父上に言ったんだ。すずもこの家の一員なのだから朝食に招いてあげようって」  ……なぜそんなに誇らしげなのでしょうか? いや、気にしたらだめだ。 「そ、そうだったのですね。ありがうございます」 「俺ってすずに優しいよな?」 「え? は、はい。そうですね」  一応頷くと、圭吾様は満足した様子で少しだけ襖を開けた。 「父上、すずがようやく来ました」  すぐに「入りなさい」という叔父様の声が聞こえる。 圭吾様が中に入った後、私は気持ちを入れ替えるように背筋を正してから襖の前で正座をした。 お母様は特に挨拶には厳しい方だったから、暮らしぶりが変わっても礼儀作法は体が覚えている。  ……よし。 私は綺鼠家の者として恥ずかしくないように振る舞いましょう。 「お待たせしてしまい申し訳ありません。失礼致します」  少し間を取って下げていた頭をあげると、一番にあの黒髪の青年と目が合った。 青年はじっと私のことを見つめている。 そしてどこか懐かしそうにぼんやりと目を細めた。  ……どうして、そんな目で私を見るのでしょうか? 「すず、何をしている?」 「あっ、し、失礼いたしました」  叔父様に言われてハッと気がつく。 私はもう一度頭を下げて部屋の中へ入った。 空いているのは末席。 そこにお膳はなかった。 私はただ座っていろということみたいだ。  しかし、それよりも私を困惑させたのは席の並び順だ。 廊下で会った青年は私の隣に座っている。 そして向かいの床の間側の席に居るのは叔父様、圭吾様、圭吾様の婚約者の梓ちゃんだ。 ということは、お客様にも関わらずこの青年は下座に座らされているということになる。  一体どういうことなのでしょうか?
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