猫の好敵手

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「猫塚の当主が好きなのか?」 「えっ!? す、好き!? 何故ですか!?」 「なんか、必死だから」 「え、ええと」  秋都様をそういうお相手として考えたことはなかった。 なんだか恐れ多くて。 それに、好きってどういう感情だろうか? 色々考えているうちに、なんだか顔が熱くなってきて私は下を向いた。 「す、好きかどうかは分かりませんが、尊敬はしています。でも、私はただみんなの役に立ちたいだけです」 「へえーーーー?」  ニコニコしている伊織様の反応はなんだか意味深だ。 「そ、それで、薬草園を作ることは賛成してくださるのでしょうか?」 「良いよ。株分けしても」 「本当ですか!?」 「うん、でも条件がある」  条件……?  何だろうと首を傾げると、伊織様は「ふふっ」と上品に笑った。 「圭吾が言ってたけどまだ祝言は済ませてないんだろ? 猫塚の当主には梓を当てがって、すずは俺と結婚して」 「え?」  ーー伊織様、また変な事を言い出した。  私はまず最初にそう思った。 伊織様はかなり自由な方で、突拍子もない発言をしてはいつも周囲を驚かせていた。 今回もその遊びの一つだろう。 「私と結婚してどうするんですか?」 「幸せになる」 「そ、そうですか。ですが干支は異種族との結婚は禁忌では……?」  干支達は代々自分たちの立場を守るため混血を避けてきた。 たとえ隠居している伊織様のお父様が許したとしても、他の干支が許しはしないだろう。 伊織様は変化ができない私とは違う。 当主なら尚更だ。  私が尋ねると、伊織様は私の腕を引いて内緒話をするように身を寄せた。 「それが、良い知らせがあるんだよな」 「え……?」  ーー伊織様が小さな声で知らせてくれたことに私は目を丸くする。 にわかには信じがたい内容だ。
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