猫の好敵手

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「それ、本当ですか?」 「本当。猫塚の当主は綺鼠の女なら誰でも良いんだろ? だったらすずじゃなくても良いじゃん」  伊織様を見上げる。 至近距離で目が合うと伊織様はニコッと笑い返してきた。  か、返す言葉が、見つかりません……。  けれど秋都様と最初に出会った時のことを思い起こせば、確か秋都様は直系の姫が良いと言ったのだ。 そうすれば選択肢は私しかない。 そうだ、そのはずだ。 「ええっと、そんな事ないです。秋都様は直系の姫が欲しいそうですよ?」  しどろもどろになる私を伊織様はじっと見た。 「ふぅーん? けど梓の親父はすずのじいちゃんの姉の子どもだよな? 長子を辿るなら梓の方がすずより血は濃いとも言えるよな?」 「え? そ、そうでしょうか……」 「俺、この説めちゃくちゃ自信あるから。すずが嫁ぐより梓の方が良いって」  伊織様がそんなに主張するなんて珍しい。 だからそれが最適解のような気がしてきた。 確かに私は下働きだったのだから、地位で言っても梓ちゃんの方が上だ。 「けれど……梓ちゃんの気持ちは?」 「あいつ圭吾の羽振りが悪いって愚痴ってたけどな。一番金持ちのところに嫁ぎたいんだって」 「そ、そうなんですか」  そういえば梓ちゃんは子どもの頃から玉の輿に乗り遊んで暮らすんだと豪語していたような気がする。  だったら尚更、私が伊織様と結婚して秋都様の元へは梓ちゃんが嫁ぐのが良いように思えてくる。 それに祝言は来月と言っていたし、それまでに事が済めば何も問題は……ない。  桔梗の花のことは取り下げられないかもしれないけれど、それも薬にしてしまえば無駄にはならない。 「もしかしてすずと猫塚の当主は引き離せないほど愛し合ってるの?」 「う、、、」  秋都様にとって私は、ただの鼠族の女。 下剋上の象徴。 それがその役割を超えて役に立つことができる。  何を迷うことがあるのでしょう?
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