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「え……っ!」
頭が混乱する。自分が最後のポケットに落ちたのを見たのは間違いなく『ナンバー3の赤』だった。だからそのひとつ前はナンバー2の青のはず。……思い返しても青ではなかった。
しかし、ここにきて十六夜が間違えるだろうか? それも『間違いない』と断言してまで。
「ほう……断言したが、それでいいかね? 『ナンバー3の赤』で。今ならまだ画面を見ていないから変更を認めてやってもいいんだぞ?」
狐村が怪しく嗤う。
「少なくとも最後のポケットを凝視していたはずの、隣におられる上司殿は違う意見のようだが?」
「……勝手な憶測で物を言うのはやめてもらえませんか?」
そう否定するが。
ほん、と! 嫌な野郎であらせられますこと。
だが、私がここでどうこう意見を言うことはできない。『上司自身が十六夜の力量を信用していない』という言質を取られかねないからだ。
だが、しかし。
「変更はない。そいつに映ってるのはナンバー3のスカーレットレッドだ」
十六夜には自信があるようだ。……どういうこと?
「が、しかし」
十六夜がゆっくりとポケットに近寄っていく。
「実際に落ちたのはナンバー2のブルーだったがな」
「ええ?! 何それ?」
思わず目を丸くして聞き返した。
「どうもこうも無ぇよ」
十六夜が狐村を手で押し、自分でカメラを再生させる。
「判定は『このカメラに映った画像』で決めるんだろ? だったらナンバー3のスカーレットレッドが映ってるはずだ……ほらな」
言われて覗き込んだ画面には、確かに赤い玉が映っていた。
「こ、これは……」
理解できない。いったい何が起こったのか。いや、私が見間違えた? そんなはずは……。
振り返ると、狐村と神月が真っ青な顔で固まっていた。
「お前ら、他人を軽く考えすぎだ」
かつん……と軽い靴音をさせながら、十六夜がゆっくりと台の反対側へと歩いて行く。
「俺がカメラの入れ替えに気づかないとでも思ったのか? ……まあ、常人相手ならその手も通用するかも知れんがな」
「ええ?! カメラを入れ替え? い、いつの間に!」
少なくとも私は気が付かなかったが。
「2番目のイエローベルトを確認した瞬間に、神月が2つのカメラを左右入れ替えたのさ。うちの上司殿があからさまに『ホっとした』からその精神的な隙を突かれたってわけだ」
「勝手な憶測で物を言われては困るな」
狐村が声を荒げる。いや、それはさっき私が言ったセリフだけれども。
「うちの神月がまるでイカサマをしたような発言は訂正を願おう。まるで詐欺師のような扱いは侮蔑的……」
「悪あがきしても無駄だぞ?」
十六夜は動じていなかった。そして、最初に確認したカメラを指さして見せる。
「うう!」
神月の顔があからさまに強張った。
「レ、レンズがこっちを向いている! い、いつの間に!」
よく見ると、確かに真下を向けてあったはずのレンズが水平方向に向きを変えているではないか。
「ここに全部録画されている。……信じないなら、再生してみるか? もっともそこの神月とやらは『バレた』ってツラをしているがね」
十六夜は、それでも淡々としていた。
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