15章(岐路)

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 コバの家を後にして最初に立ち寄った町で酒が欲しくなり、こじんまりとした酒屋に入った。  店内はそこそこに混んでいる。肉や野菜の焼ける臭い、一日の労働を終えてひと息つく職人や人足たちの話し声。シンも久しぶりにくつろいだ気分になり、麦酒と揚げた芋を注文した。  特に聞き耳を立てていたわけではないが、隣の卓で飲んでいる三人組の話が自然と耳に入ってくる。どうやら二人はこの町で商いをしている商人、残りの一人は町から町へと渡り歩いている行商人のようであった。 「それでさ、そのオヤジが言うんだよ、シャインウッドに居る魔女はすげー美人だってよ」 「なんだいその魔女ってのは?」 「さあな。正体は誰も知らねえらしいが、碧い目をした金髪美女で、なんでもどこかの国の侯爵の娘だって噂もあるらしい」 「あ、その魔女の話なら俺も聞いたことある。粉屋のダンが言ってた。確かに凄い美女だが、顔に醜い傷があるらしいってダンは言ってたぜ?」  シンは思わず立ち上がっていた。  碧い目の金髪美女、侯爵家令嬢、ここまでなら聞き流しても良かったが、顔に傷が有るとまで言われたら聞き流すわけにはいかない。  シンは隣の卓に歩み寄り、三人を見下ろした。 「な、なんだいあんた?」  傷だらけのシンの顔を見て行商人が怯えた声を出す。  ピシャリ、と音を立て、シンは卓の上に金貨を一枚置いた。 「すまないが、今の魔女の話を詳しく聞かせてくれないか」  店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。良く晴れた夜空には丸い月が出ている。  しばらく歩いたところで分かれ道にぶつかった。  左の道はトリストリムを経由してグウェルに向かうブラティス街道、右の道はゴーサラ国内を西に進み山間部へと向かう細い山道。シンは立ち止まり、月を見上げた。その月に笑顔の良く似合う男の姿が映った。  おまえの好きにしろ、月に映った男の笑顔がそう言っているような気がした。 (エルネスト、もし天がもう一度俺とおまえを引き合わせるのなら、その時はおまえの夢のために剣を振ってみよう)  シンは月に向かってそう呟き、右の山道へと歩き出した。             第四部(天人国編)完
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