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宇宙と嵐
「もしかしたら……、コレの繋がりかもしれないな」
手に取った代物、━━━虎徹家の殉職者の御守り。
「袋の色は、━━━濃藍色だ。……と、いうことは。確か……、半年前に濃藍色の御守りを持った厄除師の抜き打ち試験があったんだよな。もし、そうだとしたら、アイツも試験に出ていたはずだ」
宇宙は、すぐに携帯電話の画面にタップし耳にあてる。数秒後に、コール音が鳴り、五コール音目で相手が出た。
《……もしもし?》
「もしもし、じゃないよ!ワンコールで出ろよ、ポンコツ。僕の貴重な時間を下らないことで減らせるなよ」
《いや、さすがにワンコールは無理だからッ!!━━で、電話の用件は何?宇宙》
「あぁ!嵐さ。半年前に抜き打ち試験があったって、話していたよね?その時に、虎徹の分家も居ただろう?」
《あ━━━━━━………………、知らねえ》
「知らないはずがないだろッ!?虎徹家の奴らのほとんどが派手な髪色ばかりじゃないか!
あんな、眼精疲労を進行させる世の中の迷惑な銅色ヘアーカラーを、忘れられるわけないんだろッ!!……お前、話すのも面倒だからって、適当に言ってんじゃないだろうな?言わないと、今残っている借金を増額にするぞ!!
まぁ、とりあえずカウントダウン五秒前……、」
《は!?ちょッ……》
「四秒前ぇ~~。もう面倒だから、残り一秒前ぇ~~………」
《━━━いやッ!本当に、知らねえからッッ!!そもそも、今回の抜き打ちは集団じゃなくて〈個人〉だったからな。他の厄除師誰とも会っていねえよ》
普段、マイペースで場の空気が読めない三男坊、嵐。たいていの事は、動じないが、〈借金〉のキーワードに酷く動揺してしまう。
「え?個人での抜き打ちだったの??……珍しい。いつもは、集団でやるのに」
《ん?あぁ……!〈現時点で、〈濃藍色〉のレベルの奴らが数人しかいないから、今回は個人試験でやりましょう〉と。前回の十二支当主会議で決まったって、なつりさんが教えてくれたんだよ》
「へ~~~~~……、そうなんだ。それでお前、合格したんだろうな?」
(あの、丑崎家の最凶女。能力を使って盗み聞きしたな。━━━と、いうことは、今までも嵐のために助言していた可能性があるな。それなら……)
嵐の発言で、だいたいの状況整理ができた彼。共に、驚きと嫉妬が生まれる。
そりゃそうだ。まさか、あの一部で有名な〈最凶女〉が盗み聞きを成功させたからだ。
◇◇◇
今から二年前。
柔らかな春の香りが薄れた、梅雨入りの頃だ。
十二支当主会議は宇宙自身も〈時空の放浪者〉で、情報を手に入れようと思っていた時があった。
だが、その前に公主から
「宇宙、君のことだから大丈夫だと思うけど……。当主会議で盗み聞きは禁止じゃからな。もし、した場合は……━━」
と、釘を刺される。
それでも、好奇心が手伝ってか諦められない宇宙。
誰にも知られないように細心の注意を払って、能力を使用したが跳ね返され失敗に終了する。当然ながら、公主にばれてしまい今回だけは不問に処すという事で話は終わった。
だが。それは、表向きであって。実際は、数年間は個人指名を貰えなくなってしまったのだ。しかも、個人でのシゴトを経験できないままでだ。
自身が招いたことだから仕方ないと割り切り、その日から今日まで神龍時家のサポートに回った。ボーダーラインを越えない程度の情報収集を、主に。
それが、宇宙にとって相性が良かったのか。
その情報収集のおかげで、他の厄除師より先に条件の良い案件を、手に入れることができるようになった。そして、本業の小説家としての仕事である執筆作業と取材の時間も前より取れるようになった彼。
結果的に、大成功である。
そんな平穏な日常を送っている中。突然の個人指名のシゴト依頼。
それが、━━今回の事件に至る。
そのことを踏まえて。丑崎を利用する手はない、と考えを切り替えた宇宙。
今でも電話越しで会話を続いているKY愚弟である、嵐に悟られないように言葉を続ける。
「丑崎さん、嵐のことを気にかけてくれているんだね~。ところでさ、丑崎さん元気そう?最近、会ってないからさ」
《……ん?あぁ、元気だよ。あ、そういえばこの間心配されたな……。えー……と、確か。最近、難航している未解決事件でさ。厄除師三名が穏やかな笑顔のまま衰弱死……だったっけかな?》
(━━━━ッ!?ビンゴッッ!!やっぱり、当主会議で話題に出ていたか)
「へぇ~、そうなんだ。それって、どんな話なの?」
予想的中の出来事に、胸の奥に歓喜を震わす。
《それなんだけど……、なつりさんから〈誰にも言わないでね〉ってお願いされたからさ━━……》
「ふーん、そうなんだ」
(まぁ、盗み聞きした内容だからな。口止めするよな、そりゃあ。それなら……)
ここまでも、予想の範囲内。だが、ここで諦める気はない。近づいてきた魚に釣り餌で誘い込む。
「ねえ、嵐。新作のチーカマが発売されたの知っている?」
《ん、知ってる。数量限定商品で買いたいけど……、金無いし。今回のは、〈駿河湾の桜エビ味〉だからいつもより高いんだよなぁ~》
この予想どおりの返答に、宇宙は受話器越しでニヤリと口元が綻ぶ。そして、ここから釣り餌を揺らす。
「そうなんだ~。お金ないんじゃ仕方ないよね……。でも、数量限定だし~。次は再販するかも分からないよねぇ~~━━━?」
《そうなんだよ、数量限定なんだよ!……………………………なぁ、宇宙。金貸してくんね?》
(━━━━勝ったッッ!!!)
今日まで。同じ屋根の下で、六つ子として共に生活してきたため。三男坊 嵐の性格を把握していた次男坊、宇宙。ここまでの流れは、計画通りでほくそ笑んでしまう。
だが。今借りを作って情報を手に入れなければ、と思考内を切り替え慎重に言葉を選ぶ。ここで悟られたら、計画が水の泡で終了をしまうからだ。
「え━━……、しょうがないなぁ。さっきの話が気になるからさ。それを教えてくれたら、チーカマ代を貸してやるよ。もちろん、他言無用で♪」
《……絶対に言うなよ。知られたら、なつりさんの立場が無くなるからな》
「分かっているよぉ~~。丑崎さんの立場が無くなるのは承知しているから(はやく、話せよ!ポンコツ。電話代がもったいないだろ!!)」
我が弟ながら、相手の電話代の料金を考えずにマイペースに話す様子に。内心、イラついてきた宇宙。
文句を言いたくて、言いたくて喉からメンタル専用毒針が出かかっていた。
今は〈殉職者の共通点〉である情報を、手に入れる為。
思考内に浮かんだ、目的。近くのテーブルに置いてあった、シナモンほうじ茶を淹れたマグカップに手を取る。時間がたってしまい熱めだったお茶がぬるめになった液体を、言葉と一緒に今吞みこむと。
《じつはさ━━……》
歯切れの悪い言葉。やっと話し出した嵐に、彼は静かに耳を傾けた。
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