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◇◇◇
「━━ッ、まッたく、何なんだよッッ!!アイツ。人のシゴトを邪魔してさぁ~~━━!!」
現在、午後十二時三十五分。
僕は、先ほどよりイラついていた。再び、ベットの上で大の字になっている。これは世間でいう、ふて寝だ。
***
今から十五分前のことだ。
僕達、六つ子の三番目であるチーカマKY愚弟、嵐から丑崎家のご息女から得た情報を聞こうとした、その時。
《━━オイッ!今誰と喋ってんだ、おめえ》
突然だった。
受話器越しから聞こえてきた、第三者の声。しかも、聞いたことのある汚らしいテノール調の声色ときたものだ。
僕は嫌でも察し、これから起こる面倒事に脳の奥底から鈍い痛みが生まれる。こちらの状況にお構いなしに受話器の向こう側で、なんやかんやで揉めているじゃないか。
普段の僕だったら、(お!小説のネタになるかもしれないし、暇つぶしに聞いてやるか)という気持ちになる。が、今はそんな状況ではない。
こちらは一分一秒を争う事態だから、ストレスが溜まる一方だ。
《ちょッ、今宇宙と話してますから。邪魔しないでもらえますか?━━のオッさ……じゃなくて、ーーのお兄さん》
雑音混じりだが、急遽割り込んできた相手に、いつもと変わらずマイペースな言い方で、断りを入れている嵐。(そうだ、そうだ!もっと言って断れ)と応援をしてしまう。
普段はポンコツだから、せめて今は僕の為にこの場をうまくかわして、早く情報を渡して欲しいというのが本音だ。
だが、世の中はそんなに甘くない。
《━━いいから、代われ!!ソイツと大事な話をしなきゃぁいけねえんだ、こちとらはよォ》
《え━━……、それならしょうがないッすね。はい、どうぞ》
相手の言葉を、素直に信じた嵐。
やっぱり、コイツ……ポンコツ通り越して脳みそがお飾りだな、と改めて痛感した僕。
(ちょっと、考えれば分かることなのに……。この愚弟は)
長年、一緒に窯の飯を食べて過ごしてきた弟。この状況を読めない有り様に心底情けなくなってきて、言葉も出てこないとはこのことだ。
受話器越しから相手に代わるときに聞こえる”ヒュ……!”と一瞬空気が通る音が耳に入った。数秒後に行われる時間の無駄なやり取りに対して内心、ウンザリしながら耳を傾ける。
《━━オイッ!テメェ、あの時はよくもやってくれたなァ!!》
たった今、代わった相手は待ちきれなかったのか。間髪入れずに地の底から這いあがってきた怒涛の声で、僕の左耳から脳に突き抜け右耳へ貫く。
おかげで、小さく鈍い痛覚だった頭痛が、増大化しBGMの如く脳内に鳴り響く。後、痛覚は奥深くへ浸透し、寺の鐘を突いた時みたいにしつこく余韻を残してくる。
そんな怒り奮闘している相手に、早く用件だけ聞いてさっさと終わらせよう、と今でも工事音並みに鳴り響いている痛覚に負けぬよう喝を入れた。
「あれ~?こんにちは、お久しぶりですぅ☆風羅の彼氏さん。いつも、妹がお世話になっておりまして。同棲して暫くですよね?風羅、元気にしてます??」
《おぅ!元気にしてるぜ。━━ッじゃねえよ、てめえ!!あの時、いきなり俺達の自宅に子島ってガキと押しかけてきやがってよォ。しかも、玄関開けて早々いきなり、
『わぁ!スパダリ攻めさんとツンデレ男嫁さんだ!!ぼくファンなんです。あ、あの、サインをください。記念にお二人の筋肉美をスケッチさせてください!それだけじゃないです。
種付けプ〇ス、精▲付きのディープキス、〈 〉、潮△△、イき顔、顔〇、最後にフェ◯シーンなどのスケッチさせてくださいッッ!!お願いします!!
あの、ぼく今度の商業用のBL同人誌で、【お仕置きセッ〇ス】をテーマに描きたいんですッッ!!あ、大丈夫ですよ。お二人の愛し合う【いちゃラブ】本もありますからご安心ください!!ちなみに、今回の新刊のタイトルは━━』
━━と、外にいる近所のババア達と大家がいる中で熱弁されて。
その後、一緒に酒を飲んでいたツレが「おめえの所へ行きたくねぇ」と、断られたんだぞ!もう、宅飲みできなくなっちまったじゃねえかよッ!》
「あ、そうなんですか~。まぁ、社会勉強できて良かったですね☆そんなことより、━━すみませんが電話を嵐に代わって頂けますぅ?」
《て……、てめぇ!何、軽く言ってんだよッッ!?その後、仕事の研修から帰ってきた風羅の耳に入って、問い詰められて大変な目にあったんだぞッ!!こちとらはよォ!!》
「あ、そうなんですね〜。お疲れ様でーす☆とりあえず、話は以上で大丈夫ですかね?嵐に代わってくださ〜い」
今は、そんな下らないことに付き合っている暇の無い僕は、できるだけ大人の対応をして相槌をし促す。
だけど、何が気に入らなかったのか……。更に怒りが増大したのか罵声を浴びせてくる妹の彼氏。
受話器越しからで、いい加減耳が痛くなったし。しかも、電話代持ちが僕のままなんだよねぇ……。通話かけ放題のプランじゃないから、電話代だけで来月の支払いがキツくなると考えたに達した今。
ぶっちゃけ、この状態で電話代が加算されていく度に内心、かなりイラついてストレスが溜まっていく一方だ。
━━人間、人生においてストレスは付きものだ。
人生のパートナーと思えば自然と耐性が付く。と、誰かが言っていたことをふと思い出す。
確かに、この現代だとその傾向は強く感じつつある。だけど、
それには 限度があるってものさ!!
(そりゃそうだろう。身体を壊してまで、自身の時間を犠牲にしてまで。
何のために、自分が生まれてきた意味が分からなくなるものじゃないか!!
と、いうわけで……━━、)
「嵐に代わる気ないなら、切りま━━す。人生の時間の無駄なので~」
《オイッ!テメェッッ……》
そう丁寧に相手に伝えた後、受話口を耳から放すと。相手は慌てた感じに話を切り替えてきたけど……知らないや☆
そのまま、受話器越しからの罵倒を蓋をするように、携帯の切ボタンを静かに押した。
◇◇◇
そして、━━現在に至る。
いくら大人の対応したからって、やられっぱなしは癪なので。しかも、シゴトに集中できない今。
(僕さ、やられっぱなしってきらいなんだよなぁ~……)
ここで、ふと閃き。この現代では多くの人に使用されている、薄い板タイプの携帯電話を軽くタップする。
既読が表示される某有名な無料メールアプリを開き、嵐に今どこにいるか、と文字入力し送信をする。
すると、返事はすぐに返ってきた。内容を確認し、無意識に口元が綻ぶ。そして、次に子島 伯へすぐに電話をした。
ワンコール鳴った後、『……もしもし』と、すぐに出た相手。
これから起こることを想像してしまうと、笑いが出てしまいそうになる。内容を話すと。
《━━ッえ!?推しカプのストーリーに登場する、誘い受け当て馬役として嵐兄さんが協力してくれるんですか!?し・しかも、スパダリ×誘い受けの誘惑セッ〇スシーンのスケッチのご協力を、今してくれるなんてッッ!!》
「そうなんだよ~。伯には創作を頑張って欲しいから、ぜひ協力したいってさ(嘘)」
《う……嬉しい!ぼく、推しカプと嵐兄さん、読者のために頑張って描いて貢献しますッッ!!》
「うん、体位は任せるから遠慮なくガッツリと言ってだって(嘘)今、伝えた場所に二人が居るから、よろしくね♪」
そして、会話が終了した。
伯とのたった五分間の電話会話。それだけで、さっきの風羅の彼氏とのクソったれ会話で生まれたストレスが和らいだ。
心が穏やかになった今。清々しい空気の中、朝日を浴びたように澄んだ気持ちになっている。
「ふぅー……。気持ちの整理ができたし。やっと、シゴトに集中できるよ」
今でもベッドの上で仰向けになっている状態で、硬くなった筋肉を伸ばそうと背筋をピンと伸ばす。次に、僕は思考を切り替える。
最終手段である殉職者達の遺品の記録を観ようと、虎徹家の殉職者の所持品である御守りを左手に持ち、強く視界に入れる。
そして能力の解放に集中をしようと、深呼吸をした。
ただいま、午後 十二時五十分なり ━━
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