第一章 奇妙な始まり

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第一章 奇妙な始まり

   ーー 【置き去り】。  あの世に行きそびれて、この世に生きそびれた〈(思い)〉のこと。  それは、人間だけでは無い ーー   ◇◇◇  ーー 肌に突き刺さるような冬の寒さが残る、春の始まり。  空高く、輝き溢れている満月時。  周りを穏やかに照らしている中、一人の人間が亡くなった。  それは、三ヶ月前に派遣されていた虎の分家である一人の厄除師、二十代前半の青年が、S県N市内の中学校付近の登山用の入り口にて倒れているのを発見された。  通報者、夜の犬の散歩中だった40代の男性。  通報者曰く ーーーー。  いつもの愛犬の散歩コースを通っていたら、犬が急に吠え出し慌てて前方へ急いで向かったのいうこと。  すると、道端に黒い塊が目に入り恐る恐る近づくと一人の男性が倒れていた。発見された頃は息が無かった為、携帯電話で119番に通報したという流れらしい。  裏で、この情報を得た厄除師事務員である〈受け子〉。  いつもは、社長である〈公主〉がお客様から依頼を受けた案件を、代わりに厄除師達に伝言をするという役割の彼女たち。  そして厄除師のおシゴトは、世の中の世界全体に認知されていけない非公認の稼業の一つ。俗に言う、裏稼業だ。  なので、来客される者達はだいたいが曰くつきの者か裏で処理をしたい政治家、たまにどこで知ったのか分からない一般人もいる。  だが今回は、久々のイレギュラーの出来事。  盗聴で知った受け子たちは、救急隊員が到着する前に発見者の記憶を消さなければならないのだ。これも彼女たちのシゴトの一つである。  急いで発見場所へ向かった後。発見者と愛犬の記憶を〈忘却術〉で消去処理を施す。  のちに、表向きは総合病院として開業している厄除師専用の病院〈聖京総合病院〉へと自家用車で運んだ。  医師が調べたところ、亡くなってから五日経っているとの事。  傷もない綺麗な状態のままでだ。念の為に精密に調べた所、異常は無し。  ただ【痩せこけている】、ーーという事実以外でだ。  頬は少し痩け、肋骨が浮き出ており、眼の瞼も眼球が浮き出るほどのふっくら感も無い。  全身の脂肪なんてほぼ無いと言って良いほどの青年姿の死体。骨と皮の身なり、かなり年老いた老人と言えば分かりやすいかも知れない。  原因は、〈衰弱死〉と判定される。  それなのにも関わらず不思議な事に、  ーー 彼の顔はとても穏やかで幸せそうな笑顔のままだった。  最後に、医師から被害者の青年の右手の中に強く握っていたのであろう持ったままである掌サイズの一枚の用紙を渡される。  受け取った受け子は、不思議に思いながら性急に丸まっているソレを広げた。  くしゃくしゃ姿の哀れな状態の紙に記載された内容は、殴り書きで  ー 天国 ◼️吸う 図書館の◼️◼️   涙 ー     単発過ぎる、〈固有名詞〉と〈動詞性名詞〉。  全くもって、意味不明なダイイングメッセージと化している。  コレが、この案件の奇妙で最初の被害である。  文字が掠れている◼️の意味を解析しようと試みて、分からないまま三ヶ月。  公主も考えた末、次に他の厄除師を二名で案件の事件場へ行ってもらい、調べるだけでお願いした。  これは彼らの身の安全を考えた結果。  だが……その考えも虚しく皆、最初の青年と同じ状態で亡くなって帰還してきた。傷もない綺麗な状態でだ。  今回違っていたのは。発見された場所が〈別々の場所〉だったこと。  一人は、K県Y市の海沿い。  もう一人は、I県N市の厄除師本人の自宅敷地内の小さな蔵の前。  この件から、〈厄〉処理は更に難航状態に続いた。現時点で、全く繋がりが見えない事件。  出口の見えないトンネルにいるようで、八方塞がりとはこの事だ。  だが、繋がっている部分はある。  二名の厄除師たちは最後は穏やかかつ幸せそうな笑顔のまま眠るように、ーーーー 亡くなっていること。  しかも、最初の被害者と同じように二名とも。  一人は、 〈 天国 ◼️喰べる 〉  もう一人は、海の波で殆ど消えていたが、唯一残っている文字には。〈◼️◼️◼️の◼️◼️   涙〉  慌てて書いたであろう、それぞれ殴り書きのメモ用紙を握ってままで発見された。  この件は、一週間前の出来事なり ーーーー
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