10rd glass

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10rd glass

「派手目綺麗系女子が泣いてたって情報があるぞ! 黒川!」  俺の情報網はどうだとばかりのドヤ顔を向けてくる御崎。  確かにその一部は事実だが決して抱き合っていたわけではなく、一年以上前に付き合っていた元カノに抱きつかれ復縁を迫られたというのが正確なところだ。  マイナーな射撃部よりサッカー部のエースの方がいいというような理由で向こうから別れを告げてきた他校の女子だったが、フリーペーパー発信からSNSで広がり、真直の人気が試合会場に「出待ち」なるものを生むに至って振ってしまったことが口惜しくなってしまったのだろう。  そこへきて、あの”彼女をきらすことのない”真直が自分が振った後で誰とも交際しておらず、何やら忘れられない人が居るらしいという噂を聞けば、そもそも自分に自信のある元カノだからその気になってしまっても仕様がないとは思わないでもない。  ただ、実際はその元カノとの別れは何の躊躇も遺恨もなくアッサリとしたもので、別れてすぐにこれ幸いと違う相手と付き合ったし、地央への恋に落ちてからはずっと地央一途で、何であればその元カノとのことは忘れかけていたほどだったのだ。  正に寝耳に水状態。  当然真直にその気は全くないわけで、相馬(そうま)にでも目撃されていればエレナとのクラスラインの件もあるから注意したのだけれど、とっくに引退した相馬はそにはおらず、敢えて地央に告げて不快にさせることもないと思ったから何も言わなかっただけのことだ。 「あれはっ!」  ともかく地央にだけは誤解をされたくない。  事実をありのまま話そうと口を開いた真直だったが、それは当の地央の声によって遮られてしまった。 「黒川のモテ話はもういいって。こいつは規格外なんだよ。それよりケーキ食っていい? 冷蔵庫?」  怒っているのかいないのか。  助け船なのか三途の川の渡し船なのか。  伊達に「ロボ林」の異名を持っていたわけではなく、その表情からは判断がつきかねる。 「そう。冷蔵庫。切るやつだから。あ、そうだ平林さん!」  御崎の声掛けに二人の平林が返事をする。 「おお。そっか。親子じゃんね、二人。ややっこしいから息子さん、地央くんって呼んでいい?」  はあ!?  戦犯が慣れ慣れしいこと言ってんじゃねえよ!! 「ああ。じゃあ、俺も健太って呼ぶわ」  なんでだよ!!  俺なんてずっと「黒川」のままなのに!???  「俺も……」  立ち上がりかけたところを、ガッシリと新沼に掴まれる。 「おまえの高校の射撃部はポンプ式なのか? 圧縮式なのか?」  餅は餅屋というのか、どうやら真直のエアライフルに興味を持ってしまったらしい。 「学校ではポンプ式っすけど……」  いや俺はそれどころでは、と思うものの、元餅屋の地央父も同じく興味をむき出しにして真直にガッツリ向き直る。 「黒川くんも高校からライフル始めたわけ?」 「エアは中学の終わりからで……」  地央父との親睦は深めるべきだ。  それは重々わかっているのだが─── 「地央くん、皿ってこれ?」 「ああ。ちょ、健太、そっちのその……ちがうって」  あ、くそっ! 近いんだよ、離れろ!! 「うーわ、これ、幼稚園のとき作ったの? 地央くん超画伯ってんじゃん。え? これウサギ? ブタ?」 「うるせ。どう見ても犬だろ。寄こせ! 健太!!」  ちくしょーっ!  二人で仲良くしやがってっ! 「あー、黒川ぁー、コーラ出てきたわ。飲む?」  俺のことも真直って呼べよっ!  バカーーーー!!
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