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11rd glass
ケーキをつつき始めた頃、話はライフルからスマートホンのオンラインゲームへと移行した。
どうやら地央父は息子とは違いかなりのゲーマーらしく、同じくゲーマーの御崎と、地央父に付き合わされてハマったらしい新沼がゲームを始めてしまう。
真直としてはそれに対しては何も不満はないのだが問題は地央だ。
御崎に「地央くん、このキャラって物理の本に出てきたアレに似てない?」などと真直にはわからないネタで声をかけられた地央、その横に腰掛け画面をのぞき込む距離の近いことといったら、ともすれば額がつきそうな程で。
「これいっそ同一人物だろ」
御崎に身を寄せ笑う地央にとうとう耐えきれなくなった。
舟を漕いでいる吾妻を迂回してソファーの後ろに回り込むと地央の肩を掴む。
「アルバム、約束した」
地央は、あー、と唸りに近い声をたてると、しゃあねえなぁと溜息交じりに立ち上がった。
「忘れてるからスルーできると思ったのに」
「え、何? 地央くんのアルバムとか、俺も見たいしっ!」
歯をむき出しにしてふざけるなといいたいところだったが、そこは二人の大人げない大人が制してくれた。
「バカ健太っ、気ぃ抜いてるなよ」
「うーわ、食らったっ!」
何をやっているのか真直には全く見当がつかなかったが地央父が体を揺らしたところみると、ゲームの中では何やら大騒ぎになっているらしい。
真直はこれ幸いと地央を廊下へ引っ張り出した。
「怒ってんの?」
後ろ手にドアを閉めながら、地央の部屋に入った感慨にふける前に、その背中へ気になっていた言葉をダイレクトにぶつける。
「なんで?」
短い返事と向けられたままの背中。
「だって……」
まるで拒絶されているようだと口にする代わりに背後から腕を廻し、その体を抱きしめる。
「嫉妬させたいんだろ、俺に」
拗ねた気持ちを地央の肩に吐き出す。
「なんでよ。そんな場面が今どっかにあったかよ」
「ある。まずあのクソバカと距離が近いし地央くんとか呼ばせるし健太とか呼ぶし。絶対俺への意趣返しだ。俺なんも悪いことしてないのに。そりゃこないだのことは黙ってたけど、完全にどうでもいいからだし……」
ツラツラと並べられる恨み言に、地央がそこでやっと真直に振り返った。
「あのさ、黒川…」
「ほら、俺は黒川だし」
「だって黒川じゃねえか」
「御崎は健太じゃんっ!」
真直自身、自分でかなり面倒くさいことを言っているのは承知しているし、なんであればこんな風に彼女に嫉妬されて、それが面倒くさく嫌気がさして別れたことだってあるのだ。
浮気はしないといっているのに、ことあるごとに見せつけられる嫉妬に疲れ、それがやがて一人の相手となかなか続かない大きな要因の一つとなったほどに。
「……はぁ…」
地央のため息に、そんな過去と現在の自分が重なりあってシュンとする真直。
まるで叱られた犬のようなその姿に、地央は絆されたように笑うと、それこそ犬にするように頭一つ高いところにある真直の髪をグシャグシャと撫でた。
「おまえの過去なんて今更、だろ。現在進行形の浮いた話だってただのハナシ、だしさ。覚悟してるよ。それとも? それってマジなの?」
「んなわけないし。そんな時間も、心の隙もありませんっ! 地央さんでいっぱいで!!」
そこまで口にして、そうしてやっと久しぶりに抱きしめているのだという実感が込みあげた。
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