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44rd glass
「平林くんゴメンねっ。僕がちゃんと説明すれば良かったのに」
「あ、いえ、大丈夫です」
そもそもは地央の思い込みが原因なのだし、甘いカクテルだし全部飲んだわけでもない。流石にこの程度で酔いはしないだろう。
「バオベーイ、バーでお酒飲まないなんて楽しくないデショ〜。乾杯シヨーヨ」
酔っているせいか、それとも元々なのか、唇を尖らせて脚をバタつかせるレンを田端兄がコラとたしなめる。
「俺みせ・・・」
未成年だからと口にしかけ、そうしてそれは店的にマズいのではないかと思い至り、慌てて誤魔化した。
「店飲みで失敗したことあって、それがトラウマというか・・・」
田端弟の友人が未成年と想定していなかったのだろう田端兄に迷惑をかけるわけにはいかない。
アルコールを口にしてしまった事実は覆しようがないので、田端兄が真実を知ることなく隠蔽するべきと、カクテルのグラスをさっさと返してしまうことにする。
「そんな訳なんで。それより、さっきから気にはなってたんだけど、ちょこちょこでてくるバオベイって何すか?」
レンの国の感嘆詞のようなものかと思ったが、どうにも自分に向けて発せられているようで、話を逸らすのに丁度よいとばかりに聞いてみた。
「バオベイ? あー、それは、バオベイが先に酒の失敗教えてくれたら教えてあげる」
「微妙・・・」
気になると言えば気になるが、初対面の外国人の戯言といってしまえばそれまでことに、まさか自分の過去の最大の瑕を吐露できる訳もなく。
「フライドチキンのおじいさんを、連れて歩いたとか?」
クッキリとした二重の下の瞳をキラキラと輝かせるレンの言葉に、白ヒゲに白衣装のキャラクターが浮かび小さく笑って否定した。
「じゃ。通りすがりのおじさんの頭に工事のカラーコーン被せてグリフィンドオオオオオオォォォォォオオオオル!! って叫んだ?」
それには流石に吹き出してしまい、改めて想像して声を立てて笑ってしまう。
「おじさんには災難だけどね」
「うん。ヒジョーに叱られたヨ」
シュンとなるレン。
まさかの経験談に今度は爆笑してしまい、笑い事ではないと下くちびるを突き出されるのに、笑いが止まらなくなった。
そんな自らの急激なテンションの上昇を不自然に思ったとたん、鼓動の速さと周囲の音の違和感に気付く。ただでさえ狭い視界が一層狭まる感覚はアルコールの回り始めたそれだった。
「あのカクテル結構、強かった?」
地央の問いにレンはソフトドリンクになりかわった地央の手元を見てから、まだ片付けられていないカウンターのグラスに視線を動かす。
「まあ、弱いだったら、強いかもネ」
そして肩を竦めると苦く笑って補足した。
「悪いオトコが、女の子をオモチカエリするために飲ませたりする強さ」
「そーか・・・」
「バオベイが飲んだやつ以外に───」
レンの話す声が遠くなる代わりにドクドクと脈打つ音が聞こえそうなくらいに上がる心拍数。それがアルコールだけの所為ではないだろうことに気づき、地央は大きく深呼吸する。
オンナノコヲオモチカエリ。
オレハオンナノコジャナイケド・・・。
酒は嫌な記憶を蘇らせる。
一度は封印し、そして暴かれた真実を。
あの日、酒に飲まれなければ、あんな被害に遭うことはなかっただろう。
あんな────
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