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46rd glass
『平林くん、大丈夫?』
一人で体を動かすこともままならなかった──。
『水を飲むといいよ、平林くん』
水?
ああ、だめだ。
その水は、だめだ。
「深呼吸してごらん?」
何?
深呼吸?
ああ、そうだ。これは、違う。
混乱してる。
落ち着いて、深呼吸しなきゃ。
違うんだ。
チガウ? ナニが?
飛び飛びになる意識。
心を、体を侵蝕する恐怖と、屈辱と、絶望。
醜く切り取られた過去が脳裏に貼り付けられる。
体が、震えるのが止められなかったことが。
泣きながら電話にすがったことが。
渇望した。
真直のことが──。
黒川!
黒川、黒川!
何度も呼んだのに。
何度も、その名を呼んだのに。
ナンデヨンダ?
なんで?
だって、怖かったんだ。
助けて欲しかったんだ。
助けて黒川!
怖い。
何も見えない。
助けて!!
「地央さん!!」
闇に引き摺り込まれそうなその時、力強い腕に抱き締められた。
その声に。
その匂いに。
涙が止まらなくなった。
「……く…ろ……」
ああ、来てくれた。
やっと。
俺のところに。
俺の側に。
本物の、黒川が───。
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