8rd glass

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8rd glass

「ああそっか。じゃ新沼にスカウトしてもらおう」 「いや、けど実際すごいね~。地央くんから聞いてるよ。あれだな、3年後のオリンピックに出てそうだよね。今のうちにサイン書いてよサイン。あ、これブル……なんちゃらいうオードブル。新沼さんはあんな形だけど、ほんとに器用でね。美味いから食べて食べて。てかもうビール飲んでいい? もうね、家じゃ嫁の目が光ってて」  吾妻に矢継ぎ早に言われオードブルを取り分けてくれたことへの礼もそこそことなる。  「ま、とりあえず平林さんの新しい門出と、黒川くんのお疲れと、新沼くんの失恋に、かんぱーい!」 「てめえ、吾妻、絞め殺すぞ!!」  なし崩しに始まった宴会の中、元々口数の多い吾妻のテンションもアルコールが入ったことで一層高まっているらしく、真直にビールを勧め始めた。 「こらこら、未成年に何勧めてるんだ」 「や、でも飲めるっしょ? つか平林さんだって20歳まで飲まないなんてことなかったしょ!?」 「時代時代」  否定はせずに笑っている父親の目じりが赤く染まり男の色気が見え隠れするのに、種類は違えど地央との血の繋がりを実感した。 「いや、黒川くん大人っぽいからさぁ。年相応に見えないもんね。や。新沼さんとは違う意味でよ? 健太と同じ年には見えないよねぇ」  いつの間にか御崎ではなく健太と呼ばれているところに御崎の人懐っこさが表れている。  あまり交友範囲の広くない地央と、すぐに仲良くなっただけのことはある。 「俺は普通ですぅ。黒川が規格外なの」 「いやほんと黒川くん、おっとこ前だよねぇ。背も高いしさぁ。そんでスポーツマンとかさ、実際モテるでしょう?」  なんとも返事に困り、ただ笑って受け流す真直に、吾妻はアーと声をあげ首を横に振る。 「モテないわけないよねっ! 僕、常思ってるんだけどね、テレビで誰かが言ってたイケメン税、あれ絶対必要だと思うよね」 「イケメン税!!」  〆の雑炊をのせたスプーンを大きな口をあけて迎え入れようとしていた御崎が、その手を止めて声高に唱え、開いた手の指を鳴らす。 「つかイケメン税あったら、こいつ、黒川、マジ、絶対重税っすよ」  ビールを開けていた吾妻の目が、昼下がりのワイドショーに向かう主婦のように御崎に向けられ、良くない予感が真直によぎる。 「知ってる!? 桑折明里って清純派の女優!!」 「知ってるぞ! めちゃキレイな子だろ!? 地元だからちょっと応援してたけどちょっと前、路上チューの写真撮られてた!! なんかショックでさぁ、だって高校生だよ!? ありえなくない!? やっぱマドンナなんていないんだよなぁ」 「それがね旦那」  良くない予感は悪い予感へとなり替わる。  地央がトイレに中座している今、さっさと話題を変えなければと、笑顔は浮かべど強い口調で視線を送り、制しようと試みる真直。 「御崎っ、おまえケーキ、ケーキは?」 「路上チューの相手、ここにいる、この黒川氏っすよ」 「はあああ!????? マジでぇぇぇぇ」 「おいおい、すげえな、おまえ」 「や、それは、違、わないけど、誤解っつうか、御崎てめえっ!」  御崎のとんでもなく滑りの良い口を押さえに身を乗り出したところ。 「くわおりめいり……。わ、ほんとだな。すごい綺麗な娘さん」  地央父が冷静に画像を検索し、新沼と共に画面を眺めていた。
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