9rd glass

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9rd glass

「高校生で路上はまずいだろ」 「室内でもどうだって話だろ」 「いやいや。10代でパパのバヤっさんには言えないから」 「そっか。や、俺はいいのよ。結婚を前提としてましたからね。黒川くん、今もこの女優さんと付き合ってるんだろ? なかなか会えないんじゃない?」  『つきあってるんだろ』という”継続”を真っ先に思考するあたりが、10代で『結婚を前提とした』という言葉にリアリティを持たせる、一途な性格を表しているように思われた。  かくいう真直だって今ではそれくらいの心意気で地央に向かってはいるのだが、「いや、あなたの息子さんとお付き合いさせていただいています」とは言えるはずもなく。 「や。そもそもこれは、誤解っていうか……その、大人の思惑、みたいなもんがからんでまして……」 「そうそう違うよな、黒川」  御崎、お前もたまにはまともなことも言えるじゃないか!  そう見直しかけたときだった。 「こんとき年上の女と付き合ってるって言ってたもんな」  はあああ!???  てめえはいったい何を言い出すんだ!!  悪びれない御崎の笑顔がこの上なく腹立たしい。 「御崎くん? 俺、そんなこと、いってない、よ?」  なんとか平静を保とうと笑顔を張り付ける真直に吾妻と地央父から刺すような視線が向けられる。 「うーわ黒川くんサイテー、女の敵ーーー、これもう重税とかじゃすまないよ!!? 獄門だ、獄門っ!」 「その年上の人? とを天秤にかけるみたいな関係は感心しないなぁ」  かけてないしっ!  だからそれあんたの息子っ!! 「してないっす。マジで、ほんとに!!」 「そうなんすよね。なんか、桑折明里の方からの無理からチューだったってんで学校まで謝罪にきてて、どんだけって話でしょ? こっちらの好き好きアピールとかじゃないんだもん。あの子あれだよな、おまえが手酷ぉーく振った元カノなのな?」 「手ひどくは……」 「新沼、落ち着け。お前を弄んだ女と被るかもしれんが、ここは堪えろ」 「俺は何も言ってねえだろうがよっ」  と、そんなところにトイレから戻った地央が慌てる真直を目にして小さく苦笑しながら真直の隣に腰を下ろした。 「まあ、こいつはほんと、呆れるくらい女ったらしだったけど改心したんだよな? ん?」  ひっかかりのある表現でないといえばウソにはなるが、一番詳細に近い地央から出された助け舟に慌てて乗り込んだ。 「今は本気の本気で一人だけっすよ。何気に隣に座ってくれるだけで幸せになるくらい、本気っす」  断言する真直に地央は改めて自分の立ち位置を確認し、そうして照れ隠しなのだろう、唇に小さく歯を当て無意味に机上の皿を整え始めた。  その息子の様子に何を感じ取るわけでもない父も、真直の誠実な断言に嫌悪感をひっこめたように笑むと、実は随分酔っているらしく真直のグラスにビールを注ぎ入れた。 「広く浅くより、唯一深く、だ、なあ?」  注がれたビールを口にするべきか否かは迷うところだったが、とりあえず父の不況をかうことは避けられたようだ。  そう気を抜いた瞬間だった。 「じゃ、あれ? 今のおまえの本命って、やっぱエレナなんちゃん? ほら、前の合宿の密会スクープの」 「は?」  気を抜いた瞬間のとんでもない角度からの御崎の威嚇射撃だった。 「や。違うか。同じ年だもんなぁ」 「違う、全然違う!! つうかそもそもあれ、お前のねつ造だろうが! ね、地央さん、ね!?」  思わず救いを求める真直に、真実を知れどそれを公にできるわけでもない地央は、ただただ苦笑している。 「なんだー、黒川くんやっぱイケイケなんだぁ。うわ、何、外人さんじゃん!!」 「何見せてんだ、御崎! ……もう、いい。なんとでも言ってもらって。知ってる人が知ってくれてたらいいもん俺。ね、地央さん」 「まあな」  真直からの懇願のレシーブを苦笑しつつ受け取る地央の表情に怒りは見えない。  そうとも。今更だ。  地央さんだって知ってることばっかだし、地央さんが分かってくれてたらそれでいいんだよ。  拗ねた様子で注がれたビールを口にしようとしたところを、コラと笑って窘めてくれる地央。  明里然りエレナ然り、包み隠さず地央に話していたから、いらぬ誤解を生まずに済んでよかったよかったと思ったそんな矢先。 「あ、じゃ、あれだ、こないだの試合に来てた子だ」  てめえは散弾銃か!!  思い当たる節のある、その記憶に新しい出来事に思わず地央に目を向けた。 「どれだけいるんだよ」 「綺麗な子!?」  苦い笑いで呆れる地央父。  食いつく吾妻。 「抱き合ってたって」  新沼の仏頂面が元よりのものかは判断つきかねるが、コップの中のビールを捨て新しくウーロン茶を注ごうとしていた地央の手が止まったことは、間違いなかった。
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