プロローグ

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 扉が閉まり、向こう側と遮断されてから、ずっとこの扉の前に立っている。  通路の天窓から見える空には、いくつかの金色の点が輝いている。  いつの間にか、夜になっていた。  彼女の部屋へ向かったときは、まだ日が高く、作り出される影も短かったはず。お産がこれほど時間がかかるものであると、知らなかった。 『うっ……あっ……あぁああっ……』  定期的にウリヤナの苦しそうな声が耳に届く。その声の間隔もどんどんと短くなっているように感じた。  彼女は何時間も、こうやって苦しそうな声をあげているのだ。これがいつまで続くのか。さっぱりわからない。  レナートはいてもたってもいられず、扉の前をぐるぐると歩き始めた。この場で自分にできるのは何もないとわかっているが、それでも気が気ではない。そのたびに、髪が乱れ顔を覆う。気になれば払いのける。それの繰り返しだった。  しばらくそうやってうろうろとしていると、ウリヤナの声とは違う声が聞こえてきた。 『……んぎゃ……ん、ぎゃぁああ……』  確かめなくてもわかる。これは赤ん坊の泣き声である。 「ウリヤナ」  ばん、と乱暴に扉を開けて室内に入ると、産婆の腕の中にいる赤ん坊は、真っ赤な顔をして泣いていた。
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