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「えー、どうすんのこれ?」
テレビから目を離さないまま、姉は独りごちた。
テレビには一時期話題になっていたゲームが映っている。金髪の剣士がちょうど奈落の底に落ちていくのが見えた。
姉はお気に入りの曲を聴いて口ずさみながらあーでもないこーでもないと攻略方法をぶつぶつ呟いている。
そんな姿を私は後ろから眺めていた。
新年、元旦。地元民である私はバイトに駆り出されてようやく帰ってきたところだ。暗い寒空の下、バイクを走らせて冷えた身体を湯船で温めて、髪を乾かして。
そうしてリビングに戻れば、この状況。
最近気に入っているらしい曲に合わせて歌いながらカチカチとボタンを押している。
店頭に並ぶモンスターの目や光る服に突っ込みながら屋根をよじ登る姉は、県外に進学して3年。今は就活と卒論に頭を悩ませている。
姉が家に帰って来たのは実に半年ぶり。とは言っても新学期も近いから、きっと数日のうちにまたあの古ぼけたアパートに帰るのだろう。
「ここらへんになんか素材落ちてないの?」
「あー、こいつら絶対倒せねー」
オープンワールドのゲームが故に進行上まだ行く必要のない村に辿り着いて、モンスターを前に撤退した姉に「その装備じゃまだだねー」と軽く返す。
かと思えば蔦に覆われた壁の窪みに入って宝箱を蹴飛ばした。なんだそれ、私も知らんぞ。
色んな場所を駆けていく姉に言いたいことはある。なんでそうなる。その合成は明らかに勿体無いだろ。何故に盾と盾をくっつけた?バックが勿体無い?いや、くっつけたとて防御力はそこまで変わらんが?……などなど。
しかし言わない。言えば不機嫌になるのが分かっているからだ。
この姉との数日間は、結局楽しんだかイラつくんだかよく分からない。同じものを見て育ったからか趣味は大体同じだ。話は弾む。
しかし、聴きたい曲を聴いている時に歌を被せてくるのはいただけない。この人の声で曲を聴きたいのであって、お前の声で聴きたいわけではないからである。歌うな。声が聞こえん。
そんなことを頭の中で巡らせる。ちょうど姉は攻撃を空ぶらせたところだ。だから片手剣にしろと言ったのに。魔法使いの火球を避けていく姉をぼんやりと眺める。
……けれども、しかし。
この姉が恋しかったのも確かなのだ。
密かに始めた動画投稿のアカウントも毎日追っている。こう言った動画を投稿したとか、ガチャでいいキャラが出たとか。
レポートがやばいとか、寒いとか、風邪ひいたとか。
大丈夫かな、大丈夫かな。
今までずっと一緒にいたんだ。向こうはきっと私のことなどなんとも思っていないだろうけど。
そういうのはあんまり気にしないタイプなのだ、姉は。
それでも、私は考える。心配になる。
ずっと考えていた。不穏なツイートは不安になった。
ずっと、きっと、会いたかった。
会いたかった。
帰ったあとの家は少し寂しい。ゲームのどこがいいとか、曲のどこがいいとか、誰に話したらいいか分からなくなる。
会いたかった。
帰ってもいいけど、帰らないで。
新年を超えても、まだそんなことを考えている。
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