序章

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序章

「━━では、そちらの座布団へおかけ下さい」  逢瀬の魔、夏至にて。  昼の暑さの名残りか、生温かい風が吹き抜ける現在。  只今、《キャク用》である応接室、〈朝顔〉。  この応接室は、敷地内の自宅裏に設置されているこじまりとした書院風の茶室に似た趣。  だが、違う点がある。  通常ある躙口と風炉が無い事だ。  躙口とは、客人が出入りする子扉。その代わりに露地から出入りする作りになっている。  そして、茶室で設置されている〈風炉〉が無い。  ただ、畳の上に置かれている大人二人分の幅の檜のテーブルに、対で置かれた座布団。  とても、シンプルな客間である。  【厄除師】の名家の一つである神龍時家。  彼、六つ子の長男である神龍時 海里(しんりゅうじ かいり)は自宅内に突然現れた目の前の男を、此処キャク用の応接室として利用している和室へ案内をした。  彼に言われるがまま。  訪問者、本間 浩樹(ほんま こうき)という中年の男性は顔を俯かせたまま、ゆっくりとした動作で腰を下ろす。  その顔には生気が無く、ただ、ただ、感情を抜かれたと物語っている。  スーツが似合うスレンダーな身体に、味気ない薄い唇に人垂らしのタレ目。センターパートのビジネスショートヘアーは、爽やかな印象だった。 (営業の意味では良い印象だな……、見た目は)  それが海里が思った、第一印象である。
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