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彼と出会ったのは中学三年生。同じクラスになったのがきっかけだった。もしかしたらそれまでも、廊下ですれ違ったことくらいあったかもしれないが、顔を見ていたとしても記憶には残っていない。
特に目立つ生徒ではなく、かと言って大人しいわけでもないどこにでもいそうな明るい少年だった。そう、青年というよりは少年に近かった。卒業するまで、事務的な会話以外話したことはない。それなのになぜこんなにも記憶に残っているかというと、二つ理由があった。
一つは、お互いに数学が得意であったこと。私はいつも上位に食い込んでおり、その中でも数学が一番よかった。他の科目も苦手なものはなかったため全体の成績も上位。
三年生のときの数学の先生は、クラス内上位約五名のテスト結果を毎回発表する。私は三年生になってからずっと二番だった。クラスでも、学年でも。つまり、このクラスの一番が学年で一番。
そういえば二年生までも、学年で二番から下がることはあっても上がることはなかった。そして、三年生ではずっと学年二番。どんな猛者がいるのだろうと思っていたが、三年生になってその正体を知ることとなる。それが彼、高橋燿くんだった。背は高くも低くもなく、太ってもいないし痩せてもいない。
ただ、夏服になったとき、制服の短い袖からはみ出す白い腕は血管が浮き出し、やたらと分厚かった。
部活は入っていないはずだったが、その筋肉は明らかに何らかのスポーツをしている、もしくはしていただろうと思わせるものだ。
「平均点は五十二点くらいかな。毎度だが一番は高橋燿。二番は早瀬涼夏。三番は……」
ほら、やっぱりまた二番。いつになっても勝てない。今までは競争心など持ち合わせていなかったが、さすがに同じクラスの高橋くんがライバルとわかってからは、一度は勝ちたいと思うようになった。
しかし勝てない。勉強しても勉強しても毎回二番。
「早瀬も一度くらい一番取ってもいいんだぞ?」
数学の先生は簡単に言ってのけ、薄ら笑いまで浮かべている。取れるもんなら取ってますって。
「今回も惜しかったぞ」
「ホントですか?」
「おお。悔しいだろ?」
私は軽く首をひねりながら答える。
「悔しいというか……謎ですね」
「何が?」
「勉強しても勉強しても順位が変わらないので」
「だってよ、高橋」
先生が半ばおもしろがりながら、高橋くんに話を振った。
「え、俺っすか?」
「お前だ」
「いや、俺だって勉強してますもん」
「どれくらい?」
「それなりに?理系好きなんで、数学と理科はちゃ〜んと勉強してますよ」
理系が好きとかことごとく私と重なっている。そういえば理科も二番ばかりだ。悪い予感がよぎったが、深く考えないようにした。
こんな風にして、間接的な会話はたまにあった。数学の先生のおかげとも言えるし、そんなことしてくれなかったらこんなに彼を意識することもなかったといえるかもしれない。
結局卒業するまで、一度も数学で勝つことはなかった。
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