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「燿くん、かっこよくなったねー」
繭ちゃんを始めとした女性陣にちやほやされるが、全く動揺を見せる様子もない。これは……モテるからもう慣れてるやつだ。
「はは、ありがとありがと」
高橋くんは、空いている椅子にすぐ腰掛けた。
かっこよくなったというか、私には昔から見えている姿は一緒だった。ずっとかっこいい。
「ドリンクみんな頼んだよ。何にする?メニューはコースで頼んでるから」
「コーラあるならコーラ」
「おけー」
あまり見つめると悪いと思い、ほぼ反対側の対面にチラチラと視線を向けながら、高橋くんの声に耳を傾ける。声も変わっていない。甘い落ち着きがあり、とろけそうになる。
真ん中の対面に今村くんがいたので、私は彼とよくしゃべった。小学生のころから知っているせいか、数年ぶりに会ってもほとんど距離を感じなかった。今村くんが席を立った瞬間、隣にいた繭ちゃんが話しかけてくる。
「もしかして昔好きだったとか?元カレとか?」
「ん?誰のこと?」
何を言われているのかよくわからなかった。それくらい今村くんのことは何とも思っていなかったし、そんなことより彼の後ろ側にときおり見える高橋くんばかり気になっていた。
「今村くん」
「え、ああ、違う違う。友達友達。好きだったこともないよ」
「そうなの?」
「うん。あれ、もしかして繭ちゃん好み?」
「わりと。笑顔がかわいくない?」
私は笑いながらうなづく。かわいいといえばかわいい。無邪気な笑顔ではある。だがそれを言ったら、大人びて見える高橋くんの笑顔の方が、何倍も無邪気で破壊力があった。
「今日仲良くなったらいいよ。すぐ仲良くなれると思う。誰とでも分け隔てない感じだから、今村くんは」
「そうなんだ。ちょっとがんばってみようかな」
「私のことは気にしないで会話に入ってきていいからね?」
「うん、ありがとう」
にっこり微笑む繭ちゃんの頬はほんのり赤み帯びていた。
そして私はやっぱり、こそこそと高橋くんを盗み見ていた。北海道ではどんな暮らしをしていたのだろうか。彼女はいたのだろうか。大学はどこに通っているのだろうか。何学部?何学科?バイトはしてる?彼を見つめているだけでは何一つ情報が得られない。
「真淵さんは法南大なんだ。早瀬は何大?」
「明北だよ」
「ん、明北?」
「うん、何で?」
今村くんは少し首を傾げて、少し大きな声で呼びかけた。
「おーい、燿って何大だっけ?」
ドキリとした。何でいきなり高橋くんに話題を振るんだろう。
「明北だよ」
え、全身の時が停止するのがわかった。体毛さえ一ミリも動かない。
「だよな?早瀬も同じ大学だって」
「へー、そうなの?何学部?」
「……工学部」
声が震えるのが自分でもわかった。
「俺、社会学部。キャンパス一緒だけど校舎違うからたぶん会うことないだろーな」
まさかの文系学部で衝撃だった。アイスホッケーに身を注いでいるため、理系学部は止めたのかもしれないし、たんに興味を失ったのかもしれない。
「そう、だね」
驚きすぎてたいした受け答えもできず、いつの間にか会話は終了していた。
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