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「どうしたの?」
繭ちゃんが私の異変にいち早く気がつく。
「高橋くん、理系得意だったのに文系学部なんだなって思って」
「あー、まあ高校で色々変わったんじゃない?」
そう、私の知らない高校生活で……高校で何があったのだろうか。もしかして勉強についていけなくなった?歴史に興味をもったとか?この私たちが生きている社会全般に興味をもったとか?公務員を目指しているとか?
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「……うん、そうだね」
何がどうなって彼を変えたのだろうか。私の知っている彼はまだどこかに存在するのだろうか。もしかしたらほとんど北海道に置いてきてしまったのかもしれない。
外は雪がいっぱい積もって、スケートリンクの氷にいっぱい乗って、毎日アイスホッケーをして、彼は新たな何かを見つけたのかもしれない。
そうやって変化していく彼を近くで見ていたかったような気もするし、見なくてよかったような気もする。もしかしたらアイスホッケーをしていないときは、女の子と遊んでばかりだったかもしれないし、勉強も全然しなくなったのかもしれない。
なぜか急に負の感情ばかりが底知れず沸き上がってきた。高橋くんは全然悪くないのに、私が勝手に彼を悪に仕立て上げようとしていく。
「次、カラオケ行く人ー」
気がつくと二次会の話になっていた。
「涼夏ちゃん行く?」
「繭ちゃんが行くなら行こうかな」
「私は今村くんが行くので行きます」
はっきりしていていいなあと思い、声を出して笑ってしまう。
ちらっと見ると高橋くんも二次会に行くようだった。なぜか女の子に囲まれている。連絡先を交換しているようだ。
このとき初めて心に決める。もし、あの広いキャンパス内で高橋くんに会うことがあったなら、そのときは運命だと思って連絡先を聞こう。それくらい私にとって覚悟のいる行動だった。
しかし、それはあっさりと打ち破られる。
「あ、早瀬さんも教えてよ。同じ大学だし」
何とスムーズな聞き方だろうか。絶対つわものだ。猛者だ。チャラい男の子になってしまったのかもしれない。元来チャラかったのに、私が気がついていなかっただけなのかもしれないが。
……いや、そもそも連絡先を聞くことってチャラいことなの?大学に入ってから自分自身が多くの人と連絡先を交換したことを思い出す。何だ、チャラくないじゃん。彼がチャラいなら私もチャラい。大学生はみんなチャラいということになってしまう。
私はあたふたしながら連絡先を教えた。覚悟はどこへやらだ。今の高橋くんを知るのが少し怖い。
変わっていたらどうしよう。だが、変わっていても気がつけるほど仲が良かったわけでもない。変わっていてもいなくても、気がつけないことの方が怖いのかもしれない。彼の横顔を見つめながら思う。
あー、高校生の高橋くんに会いたかった。それから今の高橋くんに会いたかった。
私は無意識にいつまでも、どこかにあのぐっしょぐしょなクロックスが転がっていないかと探し続けていた。
(了)
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