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ここはじごく
「はっ、そうやって大人しくしておればええ……! お前も盛りを過ぎた年増じゃ、その器量よしの種さえ仕込ませりゃあ用済みじゃ」
「おい、殺すでねえぞ! 手拭でも嚙ましとけ、まだ十分に抱ける柔い膚じゃ、まだ代わりもおらんのじゃけえの」
口の中に生臭い布が詰め込まれ、皮の分厚い手が萎びた珠のものに伸びる。ただただ不快であったが、触れられればそれなりに熱は灯ってしまう。そんな己の浅ましさが呪わしかった。
――どうしたら、ええんじゃ。
――残っても地獄、ここを出ても地獄……。
――もう、どうでもええ……。
「ほれ、続きじゃ。どうじゃ若様、もっと近くで見るかえ」
「お前さまもせめて十年若けりゃあなあ、珠と合わせて啼かせてやったんじゃが」
悪鬼だ――と、珠は思った。
おぞましい哂い声を上げる男どもこそ、世の理の歪みから生じてしまった魑魅そのものなのだと。その毒は身内へ、近隣の村々へと伝播し、この土地を中心として関わりを持つありとあらゆるものを冒す。
身体をまさぐられながら、珠はその毒から墨尾を逃しそびれたことだけを悔いた。
「人の性根とはここまで潔く腐り果てるものなのか……!」
三度、心を殺しかけたそのとき、呻くような声が微かに響き――――。
「ああ? 余裕じゃなあ、若様。見物を終えたら、あんたも沼の底に……あ……?」
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