うそもまことも

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うそもまことも

 満足げに脂を下げた三人を見送り、珠は雨水で口をゆすいだ。今回は匣の完成を報告しに来ただけだという。次の神事までに匣を奉るための儀式を終える手はずらしい。  (おのれ)と墨尾のための飯を用立てに来たのだと思い出し、珠は危ういところであったと胸を撫でおろした。もし外に出ていなければ、神事場(しんじば)を訪ねられ、墨尾の逗留が白日の下に晒されていただろう。  そうだ、天は己に味方している、不幸中の幸いであった――そう思い直し、珠は椀を手に墨尾のもとへ駆け戻った。 「すまねえ、墨尾さま、外で村のもんとかち合うてしもうて」  墨尾は、壁に背を預ける格好で起床していた。  まどろみに沈んでいたかのように瞑目していた彼は、ゆっくりと左目を開眼し、珠の臓腑まで見透かそうとするようにじっと凝視してくる。  先ほどの三人のような、粘度の高いものではない。むしろさらりとした水のように掴みどころのない視線だった。表皮をなぞるだけで、珠の姿容と、もぐり込んだ内側までもを写し取られている――そんな錯覚をさえ覚えてしまう、恐ろしい目つき。 「珠」 「な、なんじゃ」 「いつ、ここを出る?」  珠は応えに窮した。  墨尾の双眸が、既に腹を決めたのだと訴えかけてくる。珠とともにこの土地を出るのだと。 「……墨尾さま、わしはやっぱりここに残る」 「なぜ……お前を虐げる者しかおらぬ土地だというのに、何がお前を引き止めるのだ」  墨尾の視線が不意に揺れたのを見て、珠はつきりと胸が痛んだ。匣としての珠に用は無くとも、どこかで仄聞(そくぶん)していたはずだ。珠がどのような仕打ちを受けているのかを。考えたくはないことだが、先ほど外で行われていた秘事にも気づいているのかもしれない。だから、こうして逃げろと持ち掛けてくれている。
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