うそもまことも

3/3
前へ
/60ページ
次へ
 ならば、珠は宮処で健やかに過ごす墨尾を生涯想いながら、彼との思い出の残るこの土地に骨を埋めたい。何より、村の一員として受け入れられたいというのは、珠が幼い頃から渇望してきた願いでもある。  その両方が一度に叶えられる時が来たというのに、墨尾は、それでもなお珠の心をかき乱す。 「だが、珠。奴らはお前を騙し、利用しようとしているだけにすぎない。今までも、これからも」 「そいでええんじゃ、わしは木偶じゃけえ。魑魅封じの神事さえ無くなりゃあ、わしはなにも」  無理に笑みを取り繕う珠を、墨尾はひどく哀れみに満ちた顔で見、ついと眼を細めた。 「珠――お前たちのいう魑魅など、どこにも存在していない」  ひくりと、珠は喉をひきつらせた。歪に微笑したまま頬が強張り、一瞬、時が止まったような錯覚に見舞われる。 「な……何を言いさるんじゃ、そらあ、魑魅は人の眼には見えんもんじゃ」 「私には見える。そこに本当に在るならば」 「…………」 「本当に、魑魅は、無い。神の穢れは人にどうこうできるものではない。朽ちゆく物と同じだ。物と同じで、その消滅の速度に差異が生じるだけだ」
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加