1.帰省

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「母さん、ただいま。わぁ、暑い暑い!」  お盆休みに帰省した私は額の汗を拭いながら実家の玄関に飛び込んだ。 「あらやだ、騒々しいわねぇ。おかえり、千里(ちさと)」  母が苦笑しながら私を出迎える。 「だって暑いんだもん。あ、これお土産ね」  どうも、と言って紙袋を受け取り母はキッチンへと戻っていく。私は奥の和室に行き仏壇に手を合わせた。 (ただいま、お姉ちゃん。私ももう二十六歳になったよ)  写真の中で微笑んでいるのは四つ年上の姉。生まれつき体が弱かった姉は闘病の末、中学一年生の春に亡くなった。当時私はまだ小学三年生。大好きだった姉の〝死〟が受け入れられず、毎朝姉の部屋を覗いては泣いていた。姉の使っていた甘いシャンプーの香りが大好きで、でもアトピーだった私は同じシャンプーが使えず悲しかったのを覚えてる。そんな思い出に浸っていると、キッチンからガチャンという音と共に「わあっ!」という母の悲鳴が聞こえてきた。 「どうしたのぉ?」  和室から顔を出して叫ぶと「何でもないよ、ちょっとお皿割っちゃっただけ! あぁ、掃除機、掃除機!」という騒々しい声が返ってきた。 「もう、母さんは相変わらずおっちょこちょいなんだから。気をつけてよね」 「はいはい。あ、そうだ。千里の部屋、押し入れの片付けしといてね。電話でも言ったけどそろそろリフォームするから」 「ああ、言ってたね。わかった、ぼちぼち片付けとくよ」  私は写真の中の姉に「母さん、変わらないね。まぁ元気そうでよかった」と笑いかけ自室に向かう。ドアを開けた瞬間、もわんと蒸し暑い空気が流れてきて慌ててエアコンのリモコンを探しスイッチを入れた。 「やれやれ、と」  少し部屋が冷えたところで押し入れを開いてみる。 「あー、結構荷物あるなぁ」  大学卒業と同時に家を離れる時、すぐに必要な物以外は実家に置いていったのを思い出す。 「よし、頑張るか」  一番手前の箱を引っ張り出し中を開いてみる。今となっては流行遅れの服が大量に出てきた。もう着られないようなものばかりなので躊躇うことなくゴミ袋に入れていく。そんな作業を一時間ぐらい続けているとうっすら汗ばんできた。 「あー、疲れた。これでお終い、と」
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