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「たぶんね、お父さんはこのことを見越してぼくたちに本をたくさん読むように言ってたんだよ」
「このことって?」
「ぼくたちにとって、いや、ぼくにとって本屋が運命の場所となることを知っていた。と言えば、分かるかな?」
「分からないことが増えたよ。運命の場所って? お父さんがそう言ったの?」
「表通りにある本屋をご存知かな?」
「うん、田原書店でしょ?」
「そう。昔ながらのハタキでぼくたちを威嚇してくるじいさんがいるあの本屋ね」
「それはいつもきみが辞書を読みふけるからだろ? 辞書を立ち読みする客も珍しいと思うよ」
「じゃあ次からは漫画雑誌にするよ。でもぼくは辞書が好きだからなあ。今日も新しい言葉を覚えたんだ。『齟齬』」
「今の僕らだね」
「たしかに。齟と齬って似ているようで微妙に違う。双子だけど、ぼくたちは微妙に違う。そういうことが言いたいんだね?」
「例題としては完璧に齟齬を使いこなしているね」
「ありがとう。就活で役に立つかな?」
「これ以上役に立たないことは他にないです」
「で、今から本屋に行こうと思うんだけど、きみもくるよね?」
「なんで?」
「運命の場所だからさ!」
「うん、学習したよ。きみには一つ一つ質問をしていくことが大切なんだね。その運命の場所ってどういうこと?」
「本屋さ!」
「何が悪かったんだろう」
「とにかく、そこによく来る女性がぼくの運命の人なんだよ」
「ああ、なるほど。要は一目惚れしたってことね」
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