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そして五年生の今年の誕生日。コートを羽織ってマフラーと手袋つけて、僕は学校に向かう。
「裕太、誕生日おめでとう!」
「健ちゃん、楽しそうだね」
「そりゃそうだろ! 裕太の誕生日って言ったらアレだろ? 入ってるだろ?」
「ちょっと待って」
僕はコートのポケットの中をまさぐる。
「あった」
出てきたのは、お父さんの下手くそな字で『ちょうせんじょう』と書かれた手紙。
「裕太のお父さん、僕らもう五年生なのに平仮名で書くのな」
健ちゃんはクククと笑う。
三年生の誕生日からポケットの中に忍び込んでいるお父さんからの挑戦状。そこに書かれたミッションをクリアしていけば、誕生日プレゼントに行き着けるっていう代物だ。
時間のないお父さんがない時間で考えてくれた僕と誕生日に遊んでくれる方法。お母さんが準備に時間かかるってボヤいてたけど、ちょっとでもお父さんと遊べてる感じの挑戦状は僕にとっては嬉しい。
「お父さん、子供っぽいから」
だから僕と気が合うんだけどね。
「開けてみなよ」
健ちゃんに言われて挑戦状を開くとまたお父さんの下手くそな字だ。
『先生にあいさつをすること。次のカギはそこにある』
「お父さん、先生にまで迷惑かけたの!」
去年のことを思い出して、僕は大げさにため息をつく。
「全くお父さんときたら」
「そう言う割に裕太嬉しそうだよな?」
「そうかな?」
正直、挑戦状が来てから僕は誕生日を満喫している。お父さんからのミッションをこなしていると僕のために頭を悩ましたお父さんの姿が浮かぶからだ。
健ちゃんと一緒に走って学校に行き、担任の吉川先生を捕まえる。
「先生おはようございます!」
元気よく吉川先生にあいさつすると吉川先生の顔がクシャッと柔らかくなった。
「裕太くん健くん、おはようございます。それと裕太くん、お父さんからの次の司令です」
吉川先生は、お父さんの下手くそな字で『ちょうせんじょう その二』って書かれた手紙を渡してくる。
「がんばってね」
「そうかぁ裕太のお父さん、先生まで使うんだなぁ。ほら開いてみなよ」
僕より健ちゃんのほうがワクワクしている気もするけど、僕も気になるから挑戦状を開く。
『教室に置いてある国語の教科書をしらべよ』
背中がスッと寒くなる。国語の音読の宿題をサボるために国語の教科書だけ置き勉しているのだけど、お父さんは分かっているらしい。
「誰だよ……。スパイは……」
「吉川先生だろ?」
健ちゃんがあっさり答えを言い当てる。情緒ってやつがない。
「でもこれ、今年は学校の中での司令なのかな?」
「まだ分からないじゃん?」
去年も健ちゃんと司令をクリアしていって、最後は隣のおばさんがお父さんからの誕生日プレゼントを渡してもらった。お母さんが苦労しているのは、その辺なんだろうな。お父さん、お人好し過ぎるから大体の人はお願い聞いちゃうんだよな。悪いことはできないタイプだ。
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