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応接間にて、勇者一行の英雄譚を本にしたいという記者と対談していたライラは、隣にあったはずの重みが膝の上へ移動していることに気が付き、視線を落とした。膝の上には柔らかな甘栗色の髪が広がっている。自分とは正反対の真っ直ぐな髪に指を通しながら、ライラは小さく微笑んだ。
「ルナ、眠るのならお部屋に帰りましょうか」
返答はない。すぅすぅと寝息が聞こえることから本格的に寝たと悟ったライラは近くにあったブランケットを手繰り寄せ、ルナの体を包み込む。
「あ、お嬢様はお疲れですか」
「緊張していたみたいです」
「なるほど。では話を切り上げる前にひとつ聞きたいことがありまして、よろしいですか? 手短に終わらせますんで」
「ええ、どうぞ」
「カーティス様とご婚約されたと聞きました」
甘栗色の髪を撫でる手が止まる。
ライラの顔がこわばったのを違う意味で勘違いした記者が瞳をきらきらさせて、秘密の話をするかのように小声で続けた。
「カーティス様と言えば、強くてかっこいいと有名ですが、それと同時に気難しい性格の持ち主だと聞いております。お二人が婚約されたきっかけとは何でしょうか?」
「それは記事にするつもりですの?」
「いえいえ、国王様から口外はするなと言われています。時期が来たら許可を出すと、なのでその時の為に少しでも情報をまとめようかなぁと」
これは下手なことは言えない。この場で発したライラの言葉次第で記事の内容は大きく変動してしまう。
悩んだ末にライラは頬に手を添えて、長いまつげを伏せた。
「それは秘密です。お恥ずかしいので……」
「婚約したてですもんね! いやぁ、でもあのカーティス様がライラ様と、いや他人と一生を共にするなんて考えすらしませんでしたよ」
記者はライラの態度から取材の続行は不可能と判断したらしく、身支度を整え始めた。
「じゃあ、こちらを。話を聞いた中で本に載せたいところをまとめましたんで、ぜひ詳しくお聞かせください。あ、でも載せないで欲しい事があれば言ってくださいね」
記者が退出するのを見届けてから、ライラは手渡された封筒をテーブルに置くと天井を見上げた。
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