十四年の旅の末、勇者様との結婚を命じられました。

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「やはり、ってみなさま言いますよね」  カーティスは勇者と呼ばれているが百人中百人が同意するほど性格が捻くれている。出会った当初から身分も歳も上な国王やライラ相手にも臆さず、タメ口で話したり、酒場で酔っ払いに揶揄(からか)われたのに苛立ち、村一つを半壊させたり。強さことが正義といわんばかりに魔族を討ち滅ぼすことに専念しすぎて、周囲を巻き込むことも数知れず。  それでもカーティスが罪人ではなく、勇者として旅を続けたのは着々と実績を積んでいたからだ。誰もが太刀打ちできない高位魔族や魔獣、さらに魔王まで討ち取った時点でどれほど捻くれた性格破綻者でも世間は英雄として持ち上げる。  しかし、愛国心が高いモーリスや公爵家令嬢であるライラと違って、愛国心は毛頭なく、地位も低いカーティスを繋ぎ止める(くさび)はない。自由気ままなカーティスが他国へ(おもむ)き、移住なんてすればその国が力をつけてしまう。  以上のことからカーティスを野放しにできないと考えた国王は、法的に縛り付けるために何度もお見合いと称して、旅先に女性を派遣した。高官の娘、医師の娘、伯爵家の孫娘——どれほど美しく、才に溢れた女性でもカーティスのお目通りには敵わなかったようで、人の心はあるのかと問いたくなるぐらい無情に切り捨てていた。  それでも諦めない女性はいたが、何を思ったのかカーティスは魔族の首を女性に手渡した。すぐさま女性は悲鳴をあげて帰っていった。  それを学習したのかカーティスはお見合い相手が来る度に魔族や食料にする獣の生首を見せていた。女性にプレゼントを贈るのは常套手段ではあるが生首はない。モーリスとライラに叱られても平然としていた。  だからこそ、ライラに目をつけたのだろう。王家の血を汲む公爵家の頭領娘であり、魔王討伐を掲げた仲間、年嵩(としかさ)ではあるが、女であり、配偶者もいない。カーティスという獣の扱いも長けている。  十四年も共に過ごしてきたことが仇になってしまった。  ライラは悩ましげに息を吐く。カーティスのことは嫌いではない。勇ましく、ライラ達がピンチに(おちい)ればさりげなく助けてくれるところは好ましく思っている。  だが、彼は二十八歳。男盛りの真っ最中、自分のような年増と結婚なんて罰以外なんだというのだろうか。好きでもない相手と結婚する覚悟は持っていたが、それは相手も公爵家に入る覚悟がある上で成立している。戦闘大好きなカーティスと夫婦生活なんて続けれる自信がない。  その時、コンコンと扉がノックされた。ライラが入室を許可すると扉は開き、プラチナゴールドの髪が覗く。  カーティスだ。  今一番、会いたくなかった人物にライラは歪みそうになる顔を懸命に堪えた。 「カーティス様、今、記者の方とお話していたんです。わたくし達の旅を書物にまとめたいと。楽しみですね」  ああ、とカーティスは簡潔に返事をするとライラの元へまっすぐ近づいてきた。その時、さり気なくルナの頭を撫でるのを見逃さない。人間嫌いのカーティスだが拾った時、まだ赤ん坊だったルナの事は気に入っているようでこうして可愛がってくれる。ルナは嫌がっているが。  幼少期はカーティスのことを父親だと慕っていたのに、とライラが思い出に浸っているとカーティスが名前を呼んできた。
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