十四年の旅の末、勇者様との結婚を命じられました。

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「はい、どうかされましたか?」 「ここにサインを」  淡々と、まるで業務連絡の一種のように目の前に差し出された紙を見て、ライラは固まった。 「えっ、と……」  どうみても婚姻届である。  しかも、夫側——つまり、カーティスが記入すべき欄はすべて埋まっている。あとはライラが記入すれば、すぐ役所に提出できる状態だ。 「早くしろ」 「お待ちになって」  カーティスは器用に片眉を持ち上げる。口をつぐんだところを見るとライラの言葉の先を待っているようだ。 「カーティス様、少し冷静に考えましょう」 「俺はいつも冷静だ」 「……今回の件は普段より冷静に考えなければなりませんのよ。政略結婚っていうのは子を為すことも含まれているのです。特にカーティス様はこの世界を救った英雄。また魔の者が力をつけた際の抑止力としてカーティス様の遺伝子を継ぐ子が必要なのです。妊娠できるか分からないわたくしなんかより、もっと若い娘の方がいいでしょう」  カーティスは眉間のしわを深くさせる。 「わたくしの学院時代の友人に娘がいまして、確か歳は十九と若く、見た目も心も綺麗な子なんですよ。家柄もいいし、もしカーティス様が乗り気なら紹介いたしますわ」  にこと愛想笑いを浮かべる。戦闘力は劣るが容姿端麗で家柄もいい。何より四十近い自分よりもカーティスに合うはずだ。 「……書け」  たった一言。たっぷり悩んだ末に放たれた言葉にライラは滝のような汗を流す。  腹周りに肉がついてきた自分なんかより、若くて美人な伴侶の方が嬉しいはずだ。だって、男とはそういう生き物だろう。
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