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受け取った——否、無理やり手渡された婚姻届とにらめっこを続け、早一時間。にらみ続ければ記入されて文字が変わらないかなー、その間にカーティスと国王の気が変わってくれないかなー、と期待しながら待っていてたが文字は変わらないし、報告はない。
カーティスは用事があるようで婚姻届を手渡してくるとすぐ出ていってしまった。応接間に残されたライラは顔を覆った。逃げ道がないとはこのことだ。王命であり、本人は乗り気、少しずつだが外堀を埋められていく。
逃げ道がないことに泣きそうになっているとモーリスが酒瓶を手に執務室へ入ってくる。
「お、やっと受け入れるのか」
ライラの手にした紙が婚姻届だと知ると楽しそうに笑いながら、先程、記者が座っていた席に腰を下ろした。
「入れませんよ。わたくしの年齢をご存知なくて?」
「あ? 三十八だろ」
「あら、覚えているのですか。なら話が早いです。カーティス様との結婚、どうやったら破談にできるか知恵をお借りしたいのですが」
「やーなこった。変に関わってカーティスに怒られたくないもんでな」
「カーティス様は絶対にわたくしと結婚した方が怒ります」
モーリスは白んだ目を向ける。
「お前なぁ、分かってねぇな」
「カーティス様の事は誰よりも分かっているつもりです」
「分かってねぇじゃん。仕方ねぇ」
「もしかして、国王陛下と何か企んでます?」
「企んでねぇよ。俺はな。ヒントをいくつか出すから自分で考えろ。本当はひとつって言いたいところだけど、お前は気付かなそうだからな」
「ひとつでけっこうです」
「いーや、絶対、百パー気付かない。百万ダルク賭けてもいいぜ」
「なぜでしょう。とてつもなくムカつきます。あと、そんな大金持っていませんよね」
ここまではっきり言い切られるとは思わなかった。
しかも、万年金欠男が百万ダルクも賭けると言うなんて。
「では、まずひとつ目。俺達の旅が延長された理由とは」
「理由って、魔族を討つためですよね?」
「そりゃあ表向きだわな。本当の理由は何だ?」
「……王様に命じられた、とか」
「ぶっぶー。はい、じゃあ誰が言い出した?」
ライラは記憶を辿る。なにせ三年前だ。だいぶ古ぼけているが、確か血と瓦礫が散乱する魔王城で四人集まったはず。そこで各々がこれからの行く末を語り合った。
それで、確か旅が続行されたのは、
「……カーティス様が〝これじゃ平和が訪れない〟と言い出して」
「うんうん、そうだな。ちなみにお前は魔王討伐した後、どうするつもりだった?」
「父の跡を継ぎ、婿をとるつもりでした」
当時、ライラは三十五になったばかり。その年齢で妊娠出産した前例が記録に残っていたこともあり、すぐ国に帰り、婿をとるつもりだった。
公爵家の後継者としての責務を果たすつもりだ、と何度か話した事がある。自分よりも若い癖にもう忘れたのかと胡乱な目で妙に穏やか顔をしているモーリスを見つめる。
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