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「成功しました、もう大丈夫です」
「よかった…よかった…」
とっくに日が暮れ、敷き詰められた黒の中に、純白な何個もの星が輝いていた。
***
優奈は生まれた時異常なほどに体が小さく、危険に晒されていた。だが、名門医師が破格の値段で治療を受けてくれて、どうにか手術が成功したのであった。
9才の頃、その話を母から聞いて、医者になりたいという思いを抱くことになる。しかし友達にアイドルの道を誘われ、医者については頭の片隅にしまわれる事となった。彼女は無事試験に合格して、整った顔とスタイルのいい体で人々をたちまち虜にしてしまった。だが3年後、積んできたキャリアが崩れる事となる。
「もう吸わないか?」
「はい、もちろんです」
「辛いことがあっても絶対薬物には手を出すな。ほら、帰っていいぞ」
優奈は、堕天使と囃された。日々のストレスや誹謗中傷により薬物に手を付けてしまったのだ。ビリビリっとした刺激に襲われた後、やがて快感へと変わっていく。それが大変心地よかった。無論刑務所に入れられる事となり、懲役4年が科せられた。
「なんでこんなことに…」
何かをする気力も無く、ベットで寝転んでいた。棺桶に片足を突っ込んでいる気分だ。
***
何日か経ったある日、公園でも行こうとバスへ乗り込んだ。するとそこには、写真をじっと見つめている女の子がいた。優奈より5、6歳ほど若くて、恐らくラオスやミャンマーから遥々来ているのだろう。
「出稼ぎか」
納得したように頷いて、彼女の見ている写真を少し覗いてみた。そこには、その子と、両親らしい人物が写っていた。三人ともとても幸せそうで、天真爛漫という言葉が合いそうである。すると、その女の子が不意に振り向いてきた。ギョッとして、すぐさま目を逸らした。
「こんにちは」
とても日本語が上手だった。
「こ、こんにちは… 」
「私の写真見たよね。どうかされましたか?」
とても丁寧だったが、なんだか圧を感じた。
しかし優奈は、思い切って聞いてみた。
「すみません、気になって。いい家族写真ですね」
すると、考えていた反応と裏腹に、悲しそうな顔をしていた。焦点の合わない目で俯いている。
「私のママ、死んじゃったです。」
何秒か沈黙が続いたが、バスのアナウンスが静寂を破った。
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