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ポケットの中でほんのり温いその温度はまさに、いつもわたしたちがテレビ画面の向こうに広がる戦禍を眺めているときの温度と同じで。
服の表面をじわりと膜のように広がって、息すらつかずに燃え上がる直前の毛羽立ったセーターのようなもので。
静かに、それでいて確実にふつふつと熱されて。
最後、いつか耐えきれなくなって爆ぜるその時を待っている。
何食わぬ顔で電車の座席に腰を下ろしているが、わたしの全神経はさっきから制服のシャツの胸ポケットに集中している。ずっと握りしめていたせいですっかり温かくなってしまったスマートフォン。丸いカメラレンズだけがポケットからはみ出てしまって見た目がダサい。ただ、電車の中は人もまばらで、気づく相手はいなさそうだ。
しかし、わたしがこれに込めた想いには、いつか気づいてほしいと願っている。
さっきメッセージを送ったばかりの、たった一人にだけは。
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