ひとなみ

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 波の砕ける音が汀に広がる。今日の空は快晴で、優しい陽気が心地いい。しかし、人々の視線は上ではなく、真逆の方向へと向けられていた。  袖を捲った人々は無言で砂へと手を伸ばす。そうして形のないものを掴んでは、また別の箇所を探す。ここではそういうことが、ずっと前から繰り返されていた。  あの砂浜では、世界にひとつしかない、自分だけの貝が手に入るらしい。  今までその光景を見て、私は不思議に思っていた。  どうして、あの人たちは砂浜へ訪れるのだろう。延々としゃがみ込んで貝を探して、嫌になったりしないのだろうか。よくもまあ、あそこまで夢中になれるものだ。  あの砂浜にいるのは、別世界の人間だ。
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