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「生きているうちに、段々と貝を持っていることが苦しくなってきたのです。そうして目を向けず過ごしているうちに、いつの間にか貝は色褪せておりました」
「え」
世界にひとつだけの貝。あれは、色を失うことがあるものなのか。あの子の手にした貝は、あんなにも眩しい美しさを有していたのに。
「もう全部がどうでもいい。若い頃はそういう自暴自棄になってしまうものです……ある日、私はここに貝を投げ捨ててしまいました」
「捨ててしまったんですか?」
「ええ。時が経ってからひどく後悔しました。どれほどつらくても、決してあれを手放してはいけなかった。失ってからその価値を知るとは皮肉なものですね」
「じゃあ、それからずっと」
「……贖罪のようなものです」
言葉に詰まる。捨ててしまってからずっと、この人は在りし日の宝物を探し続けているのだ。もしかしたら、もう一生見つけることなんてできないかもしれないのに。
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