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「あの」
浅く息を吸って、私は言葉を吐く。
「私は、今まで何も頑張ってこなかった人間です。だからおじさんのように、必死に生きて貝を探し出した人に、何かを言えるような立場ではないのですが」
男性はわずかに顎を上げて、言葉の続きを待つ。
「そこまで自分を苦しめなくても、いいんじゃないですか?」
それを聞いた彼は目をぱちくりさせた。それから、頬を緩めて安らかな表情を浮かべる。まるで、子供から手製の肩たたき券を贈られた親のように。
「……ありがとうございます」
男性は感慨深そうに目を閉じる。そして、温かな眼差しを私に向けた。
ああ、気を遣わせてしまった。やっぱり私なんかの浅い言葉では、この人を救うことができない。それが無性に悔しかった。
結局誰かの心に響く言葉なんて、人生観によって形成されるものだ。幼稚なままの私では、薄っぺらい言葉しか作り出せない。もし私が幼い頃から慢心せずに生きていたら、今頃何かが変わっていたかもしれないのに。
なんて無力なんだろう。
やがて、男性は会釈をして、陸地の方へと歩き出す。
去り際に、彼はこう言い残していった。
「もしかしたら、もう一生見つからないのかもしれません。それでも、こうして砂浜に立って探せているだけでも、案外幸せなのですよ」
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