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茜色の空の下、黄金色に輝く波が寄せている。
貝を掴んだ少年の瞳の煌めきが、頭から離れない。
貝を失った男性の瞳の寂しさが、頭から離れない。
貝さえ見つければ、何かが変わると思っていた。けれど、探し出して掴むだけでは駄目らしい。
何かを探し続けるのは本当に苦しいことだ。やっとのこと手にしたとしても、それを持つことすら苦しく感じてしまう時がやってくる。
それなのに、何故人は貝を求めてしまうのだろう。
「あっ」
爪先に何かが触れ、私はそれをつまみ上げる。
もちろん、貝なんて大層なものではない。それは薄緑色のシーグラスだった。探せばどこでも見つかるようなものだ。
元は海に投げ捨てられたガラスビンの破片。つまるところ、ただのゴミだ。それが波にもまれているうちに、角が取れて研磨されていく。そうして、滑らかな石のようになる。
拾ったそれが、夕陽を受けて艶めいていた。
「……宝石みたいだな」
ただそれだけのものを、私は美しいと感じた。
誰もいない浜辺には、ただ波の音が響いている。
寄せては返すだけの波。無意義だと思ったその現象の中には、何かを磨く力が眠っている。
人が波と同じなら、私もいつか。
何の価値もないそれを、私はそっとポケットの中に仕舞った。
人はどうして貝を探すのだろう。
未だに私の答えは出ない。
けれどきっと、明日も私は、この砂浜に現れる。
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