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何者にもなれないまま、二十年が経ってしまった。
そんなある日、私はその砂浜に行ってみることにした。
爽やかな潮の香りがする。貝を探している人たちは性別も年齢もばらばらだ。サンダルを脱いで、私も貝を探してみることにする。
海水に手を浸し、何かないかと砂の中を探る。ただただ柔らかな砂粒が感じられるだけだった。しっかりと握りしめたそれは、指を離した瞬間どろりと形を失ってしまう。それを感じた瞬間、何だかひどく空しい気持ちになる。
しばらくの間、私は黙々と貝探しに取り組んでいた。
確かに、みんなが夢中になるのも分かる気がする。もうそろそろやめようかなと思っても、次は何だか採れそうな気がしてしまうのだ。
何より、諦めてしまったら今までの頑張りが泡となる。それが怖くて、縋るように貝を探し続けた。
それでも、段々と身体に疲労が蓄積される。何かを探すという行為は、心を少しずつすり減らしていく。そろそろ報われたい。そんな思いが強くなるほど、何だか余計に見つからなくなっていく気がした。
「見つかりませんなあ」
その声で我に返り、ぱっと顔を上げる。よく日焼けした初老の男性が、にこやかな表情で私に話しかけていた。
誰かに話しかけられるなんて思いもしなかった。慌てて会釈する。
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