ひとなみ

2/16
前へ
/16ページ
次へ
 何者にもなれないまま、二十年が経ってしまった。  そんなある日、私はその砂浜に行ってみることにした。  爽やかな潮の香りがする。貝を探している人たちは性別も年齢もばらばらだ。サンダルを脱いで、私も貝を探してみることにする。  海水に手を浸し、何かないかと砂の中を探る。ただただ柔らかな砂粒が感じられるだけだった。しっかりと握りしめたそれは、指を離した瞬間どろりと形を失ってしまう。それを感じた瞬間、何だかひどく空しい気持ちになる。  しばらくの間、私は黙々と貝探しに取り組んでいた。  確かに、みんなが夢中になるのも分かる気がする。もうそろそろやめようかなと思っても、次は何だか採れそうな気がしてしまうのだ。  何より、諦めてしまったら今までの頑張りが泡となる。それが怖くて、縋るように貝を探し続けた。  それでも、段々と身体に疲労が蓄積される。何かを探すという行為は、心を少しずつすり減らしていく。そろそろ報われたい。そんな思いが強くなるほど、何だか余計に見つからなくなっていく気がした。 「見つかりませんなあ」  その声で我に返り、ぱっと顔を上げる。よく日焼けした初老の男性が、にこやかな表情で私に話しかけていた。  誰かに話しかけられるなんて思いもしなかった。慌てて会釈する。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加