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「なかなか見つかりませんね。ああ、熊手とか持ってくればよかった」
「熊手は使わない方がいいですよ。ほら、みなさん素手で探しているでしょう」
「本当だ……どうして?」
周囲を見回すと、確かに誰も道具を使っていない。熊手を使えばもっと効率よく探せるのに。私は首をかしげる。
「素手でなければ出てこないという噂です。真相は誰にも分かりませんが、確かに貝を見つけた中に、道具を使った人はいませんでした」
「へえ……根気よくやるしかないってことでしょうか」
小細工は通用しないということだろうか。でも、まだ道具を使って見つけた人がいないだけで、駄目だと決まっている訳ではない。やってみる価値は大いにあると思うけれど。
いや、違う。どれだけ探しても報われない。そんな状況の中で、自分の行いの正しさを信じ続けることは、相当難しいことではないだろうか。段々と「熊手を使っているから見つからないんじゃないか」という迷いが膨れ上がり、やがて手放してしまう気がする。
成功例があるのとないのとでは、安心感がまったく異なってくる。迷いがあっては、全力で突き進むことなどできはしない。少し探しただけの私でも、人々が熊手を使わない理由が分かる気がした。
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