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「おじさんはどれくらい探されているんですか?」
「かれこれ十年になります」
「十年!」
「ハハハ」
長くても数ヶ月くらいだと考えていたから、桁違いの年月に私は目を丸くした。信じられない、私ならとっくに諦めている。なんという根気を持っているのだろう。もしくは続けすぎた結果、あとに引けなくなってしまったのかもしれない。何にせよ、目の前にいるのが大ベテランであることだけは確かだ。
「よく、そこまで続けられますね。私だったら諦めてしまいそう」
「大事なものですので。お嬢さんもそうなのでは?」
その言葉を受けてどきりとする。私はこの人たちみたいに、立派な志や熱意を持って臨んでいる訳ではない。ただ何となく参加しているだけ。野次馬となんら変わりはしない。
「すみません……私はみなさんと違って、ちょっと気になったから来ただけなんです」
本当は、ここにいてはいけない人間なのに。自分の場違いさを後ろめたく思いながら、私は目を伏せる。
しかし、彼は目尻に皺を寄せてかぶりを振った。
「動機は何であれ、あなたがそうしたいと思ったことが重要だと思いますよ」
「……そうでしょうか」
「ええ。実際に手を伸ばしてみないと、何も掴めないでしょう」
私は、ここにいてもいいのかな。
何の決意も抱かずここにやってきた自分を肯定され、少し安心する。
ほっとしたら、また貝を探してみたくなってきた。そうだ、私にだって漠然とした砂を掴み取ることはできる。
「貝、見つかるといいですね」
「ええ。それでは」
それから男性と離れ、再び私は砂に手を伸ばし始めた。
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