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すっかり潮の匂いが髪に染み付いたようだ。未だ貝は見つからない。それでも私は手探りで砂に手を伸ばす。いつか、固い感触が指先へと現れるのを願って。
やがて、中学三年生くらいの少年が側に寄ってきていることに気が付いた。彼は貝探しに熱中するあまり、私にまだ気が付いていない。何かに没頭していると、視野が狭くなってしまうものだ。少し気分転換をしたくて、私は声をかけてみることにする。
「こんにちは」
「わっ……こんにちは!」
彼はびっくりしてから、純朴そうな笑顔を見せる。集中の邪魔になっただろうか。悪いことをしてしまった。
「調子はどう?」
「全然です! もう本当にあるのかなって感じです」
「どうして貝を探しているの?」
私はそう問いかけた。先ほどの男性と接し、この砂浜で貝を探す人がどんな考えを持っているのか、興味が湧いたのだ。
「探す理由……? どうしてもほしいからです」
「私たちは、別に貝がなくても生きていけるよね。それなのにどうして、こうして必死になってそれを求めてしまうのかな」
「僕、そんなにちゃんとしたこと考えてないんですが……ううん」
少年は足元の水面に目を向けてから、やがてこくりとうなずいた。
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