糸が切れた

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 祐希の想いを受け入れる余裕が無いというのなら、それを見守るのも愛じゃなかろうか……  きっと想い続けていればそのうちタイミングも巡ってくるだろうと、達観する方に気持ちが傾いてきた時、彼はおもむろに告げた。 「アンタのがんばりを見てて思ったんだ。俺も自分の不幸を嘆いていないで、夜間バイトでもなんでもすればよかったんだって」 「遠海くんも夜間バイトに興味があるの? 紹介しようか」 「いらん、そういう話をしているんじゃない。だから……アンタに触発されたから本の中に逃げ込むんじゃなくて、知識を得るために本を読むことができて、自己破産の知識を得られたんだ」 「そうなの?」 「ああ。感謝してる」  祐希の頭の中を、はにかむような彼の声音が駆け巡った。感謝してる、感謝してる、感謝……身体中の血液が歓喜に湧き、ゾクゾクと背筋を感動の波が駆け上がる。 (嬉しい……っ! 迷惑なヤツだって思われてるのかなって心配してたのに、まさか感謝されていたなんてっ!)  頬を染めて瞳を潤ませる祐希を優しげな目で見つめた後、遠海は挑発するようにニヤリと微笑んだ。 「アンタの行動力を見込んで頼みがある。俺と一緒に起業しないか? 石油王にはなれないかもしれないが、一攫千金を狙っていこうぜ」  雷が身体に落ちたかと思った。遠海に期待されている、それだけでベッドの上を転げ回りたいくらいに気分が湧き立つ。  それに起業だって? なんて楽しそうな誘いなんだろう。石油王になるよりも再現性のある夢じゃないか。  好きだって告白した上で誘ってくれているってことは、明言はされていないが遠海も祐希のことを悪く思ってはいないらしい。  両思いになれるチャンスもあるのだろうと解釈し、間髪入れず誘いに飛びついた。 「喜んでー!」  勢い余って遠海本人にも実際に飛びつくと、彼は嫌な顔もせずに抱き留めてくれた。 「おい、さっきまで倒れてたヤツが急に動いてるんじゃねえよ。また倒れるだろうが」 「えへへっ、ごめんね! だってあんまりにも嬉しくってさ!」  にこにこと満面の笑みを浮かべると、彼はバツが悪そうにそっぽ向く。 「正直なところ、俺はまだ自分の状況をどうにかするのが精一杯で、恋愛する気になれないんだ。もう二度と金に困ることのない生活を送りたいって、今はそれしか考えられない」 「そうだよね、そう思うのは自然なことだと思うよ」  遠海はベッドに祐希を押し戻すと、捲れ上がった上掛けをお腹までかけ直してくれた。優しい。 「アンタの好意を利用するようで悪いなと思ってる。だけど俺は、アンタみたいに根性のあるヤツが側にいてくれたら、諦めずに前に進める気がするんだ」 「俺、遠海くんが挫けそうになったら全力で応援する! 任せておいて!」  ドンと胸を叩くと、遠海も心得たと頷く。 「頼もしいな。だがそのためには、学校の勉強もやっておかないとな」 「う、それは……そうだねえ」  しどろもどろになり視線を逸らしていると、遠海は床に置いていた自身の鞄からノートを取り出した。 「貸してやるよ。テスト範囲と対策をまとめてある」 「神様仏様、遠海様……っ! ありがとうございます!」  捧げ持つように受け取ると、自然と綻んだような笑顔を向けられる。 「いちいち大袈裟なんだよ、アンタは。急に石油王になるとか言い出すし、次に何をしでかすのか気になって目が離せなかった」 「本当に⁉︎ それは俺が目も離せないほどに魅力的だって言ってる⁉︎」 「あー、そういうことにしてやってもいい」 「やったー!」  騒ぎ過ぎて保健室から追い出されたけれど、祐希の心は秋の空のように晴れ渡っていた。
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