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「ああ。こちらは俺秘伝の栗饅頭です。蒸したてなんでふかふかで美味しいこと間違いなし! さあ、紅玉様もお一つ。熱いので気を付けて」
「ゼノ様の作るものはどれも美味しいから楽しみです」
「そう言ってもらえると作りがいがあります!」
ゼノは栗饅頭を二つ取り、一つを紅玉に手渡す。そして、藍影にも一つ差し出した。
「青龍帝もどうぞ。熱いうちに召し上がってください」
「……ああ」
渋々といった様子で藍影が栗饅頭を受け取ったのを見届けてから、ゼノは紅玉の隣に腰掛けた。藍影が苛立ち滲む視線を送ってくるのを無視して、ゼノは栗饅頭を頬張りながら紅玉に微笑みかける。
「美味しいですか?」
「ええ、とても」
「それは良かった! 作った甲斐がありました!」
「ゼノ様はお料理がお上手なのですね」
「いやあ、そんな褒められると照れますねえ」
和やかに会話を交わす二人から藍影は視線を逸らさずに手の中にある栗饅頭に歯を立てる。
「……ん」
口の中に広がる甘味に藍影は微かに目を細めた。二口目を食べて、咀嚼していると紅玉が「あっ」と声を上げた。
「あの、先ほどいただいたお菓子、とても美味しかったです」
「あー、あれ」
にやり、とゼノが口角を持ち上げる。
「実はですね。あれ、青龍帝が作ったんですよ」
ね? と同意を求められた藍影は口の中のものを吐き出しそうになる。急いで酒とともに喉奥に流し込み、射殺さん目でゼノを睨みつけた。
「青龍帝が作ったの、美味しかったですか?」
「あれは藍影様が作ったんですか?」
「ええ、そうですよ」
紅玉が藍影を見上げながら問いかける。
「あの、ご迷惑では」
紅玉の申し訳無さそうな眼差しに藍影の心臓が大きく跳ねた。しかし、取り繕った仮面を外さないよう頬筋を強張らせると、ゼノが可笑しそうに笑い声を上げた。
「青龍帝、そんな怒った顔しちゃ紅玉様が怖がりますよ」
「……っ、紅玉、少しでいい。話し合わないか?」
紅玉は俯き、たっぷりと悩んだ末に静かに首を縦に振る。
「私も、話したいことがあります」
なにかを決心した目で藍影を見定めた。
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