明るく照らす

12/12
前へ
/81ページ
次へ
 黄金と灰色の視線が交差する。相手の心を見透かすように、ただじっと、お互いの瞳を見つめた。 「私は、私は……」  紅玉の瞳が一度閉じる。再び瞼が開くと、そこには迷いがなかった。 「……わがままを言ってもいいですか?」 「なんでも。君のためならどんな無理難題でも叶えてみせる」  藍影としては本気で言ったつもりの言葉だ。  しかし、紅玉はそこまで要求しないと首を振る。 「私は、奴婢です。皇女という身分を与えられていますが、立場は犬畜生と同等で、青龍帝であるあなた様とは違います」  違わない! そう叫ぶのを藍影は我慢する。ここで口を挟めば、また紅玉は心を閉ざしてしまうと思ったから。 「字も書けませんし、少ししか読めません。知識もありません」  ぽつり、ぽつりと紅玉は心を吐露(とろ)する。 「性格も暗くて、共にいても楽しくはないです。きっと、つまらないと思うことでしょう」  紅玉はひと息つき、何気ない風を装って空を見上げた。 「私と一緒にいると、藍影様の評判を下げてしまいます」  何故? 藍影が無意識に呟くと紅玉は困ったように眉尻を下げる。 「私達は不釣り合いだから……」  でも、と紅玉は続ける。 「……私は、あなた様と一緒に生きたいと思いました」  藍影の邪魔になりたくない。  幸せになって欲しい。  でも、それでも、一緒に生きていきたいと思った。  紅玉は藍影の手を握り返すと祈るように額を押し当てる。 「もっと字を勉強して、藍影様の役に立てるよう頑張って、教養も身につけて、強く生きます」  ですから、と紅玉は藍影の手を強く握る。 「一緒に生きたいです。私も、あなた様とともに」  藍影は紅玉の言葉に胸が詰まる。紅玉の目には決意が宿っており、何よりも深い愛情が見えた。 「君の身分や過去など関係ない。私が守ると決めた。共に生きたいと願ったんだ。何があっても、離れたりしない」  紅玉の目が大きく見開かれ、頬がいつぞやみた薔薇のように赤く染まる。 「……ありがとうございます、藍影様」  桜の花びらが祝福する中、二人は互いに微笑み、手を繋ぎながら静かに歩き出した。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

165人が本棚に入れています
本棚に追加