166人が本棚に入れています
本棚に追加
「我は青龍帝。この地を統べるもの。斎帝国が女帝、恵嵐の罪科を裁く者」
玉座に腰掛けたのが妙齢の女であることに恵嵐は内心で驚いた。花嫁というから龍帝の性別は男だと思っていた。
青龍帝を名乗る女はぞっとするほど美しい面をしていた。笑いも怒りも微笑みもしない、無だけの表情に恵嵐は緊張を覚える。
そんな恵嵐の心中も知らず、青龍帝は淡々と経本を読むかのように言葉を発話する。
「——貴様が容易く人間へと再び生を受けることは叶わぬであろう。まず三度、虫けらとして世に生を享け、次に四度、畜生として生を紡ぐのだ。七たび生まれ変わり、その過ちを悔い改めた暁には、八たび目にしてようやく人の身として輪廻の輪に戻ることを赦そう」
やはり、想像した通り。くつくつと喉を鳴らすと青龍帝が対面して初めて顔を歪めた。
「なにがおかしい」
「……狗はお口に合いましたでしょうか?」
狗? と青龍帝は目を大きくさせる。まさか、あの娘は生贄としても覚えられていないとは。恵嵐は笑い声をあげそうになるのを我慢した。
「汚らしい野良犬のことですよ」
それでも青龍帝は分からないらしい。
そばに控えていた腹心である女がなにかを耳打ちすると今度は怒りに顔が歪んだ。
「紅玉のことか」
今度は恵嵐が首を傾げる番だった。紅玉とは誰のことだろうか。
「貴様の娘は我が妻となった。次、そのような蔑称を使えば、貴様の頸を落とす」
「……妻?」
「忘れたのか? 貴様が私に花嫁として贈ってくれた娘のことを」
鈍器で頭を殴られたような衝撃が走る。混乱して何も言えない恵嵐をよそに青龍帝は腹心にだけ聞こえるようになにかを命じた。
「さあさあ、こちらに。あなた様への罰はまだありますわ」
動けない恵嵐の身体を水が輪になって拘束する。ずるずると引きずられながら恵嵐は呆然と青龍帝を見つめ続けた。
最初のコメントを投稿しよう!