再会

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 腹心によって連れてこられたのは目にも毒な赤薔薇の庭園だった。あの男と末娘を連想させる色に恵嵐が唇を噛みしめる。血の味が口内に広がるのを不快に思っても止めることができない。  唇を噛みちぎってしまう前に誰かが恵嵐の肩を優しく叩いた。 「お久しぶりですー!」  それは忘れることができない、今でも夢にでて恵嵐に真実を突きつけてくる声。咄嗟に走り出そうとする恵嵐を声の主は慌てて止めた。 「待って! 話そう!」 「……話す理由はない」 「俺はあるんですって! なんのためにここで料理人して、恵嵐様との面会を許可してもらったと! 俺の苦労を台無しにするつもりですか?!」  恐る恐る恵嵐が顔を持ち上げ、声の主——ゼノを見た。薔薇色の髪に灰色の瞳、素朴ながら配置が整った顔は十数年前と同じ。 (それもそうか。こやつは死んだ時のままだ)  対して自分は年老いた。元々、年齢差はあったが今では傍からは孫と祖母のようにも見えるだろう。途端に恥ずかしくなり、顔を隠す。 「相変わらず照れ屋だなぁ」 「生意気な口を。……妾を裏切っておきながら、よくもまあ」 「裏切るつもりはなかったんです」  ゼノは眉を下げると頬をかく。 「嘘を申すな。妾はずっと待っていた。お前は金が目当てだったんだろう」  女帝として生きることに疲れた恵嵐はゼノに逃亡を持ちかけたことがあった。立場も国も子供も全て捨てて、ゼノと一緒に生きたいと願った。 「妾は四阿(あずまや)でずっと待っていた。なのにお前はこなかった……」  堰き止めることのできなかった涙が頬を伝う。 「お前は国庫に金を盗みにいったそうだな」 「違います。俺はあなたと一緒に生きる覚悟ができてました。四阿に行こうとしたんです」 「嘘だ」 「嘘じゃないです。どこからか俺達の逃亡が知られて、それで捕まって」 「……それを信じろと?」  涙を拭いながら恵嵐はゼノを睨み見つける。 「お前とは歳も離れている。こんな老いぼれとともに生きたくはなかったのだろう」 「だから!」  ゼノは恵嵐の頬を手のひらで包むと無理やり顔を上げた。悲しげに潤う眼を覗き込む。 「あんたを待っていなかったら、こんなことしてないんだよ!! 青龍帝があの子の父親だからって声をかけてきた時、どんだけ絶好の機会と思ったのか分かる?!」 「……分からぬ」 「分かれよ! 料理人する条件であんたの刑罰、俺も受けるんだから!」  は? と恵嵐は信じられないものを見る目を向ける。 「妾は畜生に生まれ変わるそうだ。人間としての記憶を持ったまま。……お前も付き合うつもりか?」 「ずっと一緒にいようといった約束を覚えているか?」 「……ああ」 「輪廻を巡り、また生まれ変わっても一緒に生きよう。恵嵐様と一緒なら虫でも犬でも楽しい人生になるはずさ!」  そう言ってゼノは胸を叩くと腕を広げた。  恵嵐はゼノの腕に飛び込むと、胸に顔をうずめながら小さな嗚咽を漏らす。 「それで、いつか人間に戻れた暁には、あの子に会いにいこう」  共に輪廻を巡り、幾度も生まれ変わっても、離れぬ約束を結んだ二人は、今までの隔てられていた時間を埋めるかのように抱きしめあった。
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